| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) F03-04 (Oral presentation)
ナラ枯れ(ブナ科樹木萎凋病によるナラ類の集団枯損)は、カシノナガキクイムシ(Platypus quercivorus)が媒介する病原菌Raffaelea quercivoraが原因とされている。このような樹木へのキクイムシ類と病原菌の侵入は樹木の枯死だけでなく、枯死木内に発達する菌類群集構造やその分解機能に大きな影響を及ぼす可能性が考えられる。そこで本研究では、ナラ枯れで枯死したコナラの丸太と生立木を伐倒したコナラの丸太を林床に設置して分解過程をモニタリングするとともに、丸太から採取した木粉サンプルを用いて菌類rDNAのITS1領域を対象としたメタバーコーディングによる菌類群集解析を行い、ナラ枯れが菌類群集および材分解に与える影響を明らかにすることを目的として研究を行った。丸太の設置は青葉山(宮城県)、山城(京都府)、田野(宮崎県)の3か所で行い、2016年秋から2018年春にかけて計5回サンプリングを行った。DNAメタバーコーディングによる菌類群集の検出後、ナラ枯れ丸太と健全丸太の間の菌類群集構造の比較、分解機能を持つ菌類に対するナラ枯れの影響、環境要因や菌類群集、材分解との関係を調べた。
ナラ枯れ丸太と健全丸太では菌類群集構造が有意に異なり、菌類群集全体の多様性はナラ枯れ丸太で健全丸太より有意に低い結果となった。また、ナラ枯れは材分解に重要な白色腐朽菌のOTU(操作的分類単位)数や推定DNAコピー数に影響していた。さらに、ナラ枯れが菌類群集を介して材分解に影響している可能性も示唆された。よって、ナラ枯れは倒木分解に伴う二酸化炭素放出および炭素貯蔵能力の変化にもつながると考えられる。また、本研究の試験期間は菌類群集形成過程において重要とされる分解初期にあたるため、今回検出されたナラ枯れの影響は長期的に継続していく可能性がある。今後はさらに長期間の調査・解析を行い、時間経過に伴う菌類群集遷移や材分解に対するナラ枯れの影響力の変化をモニタリングすることが必要となる。