| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) F03-05  (Oral presentation)

大型有蹄類死体が森林土壌微生物の分解多機能性へもたらす効果
Effects of ungulate carcasses on microbial multifunctionality of decomposition in forest's soil

*髙木惇司, 寺田千里, 中村誠宏(北海道大学)
*Atsushi TAKAKI, Chisato TERADA, Masahiro NAKAMURA(Hokkaido Univ.)

土壌微生物は森林生態系において物質循環に大きな貢献をしている。中でも哺乳類死体は短期的に資源の利用可能性が急激に上昇する現象であり、急激な物質循環反応が見られる。近年、日本ではシカの個体数増加に伴いシカ死体も増加し、森林の物質循環に関わる土壌微生物に影響を与える可能性がある。腐肉が森林の生物に与える影響は腐肉表面の微生物群集に注目することが多かったが、土壌微生物の分解機能に腐肉が及ぼす影響はほとんど調べられていない。本研究ではシカの腐肉が土壌微生物の炭素基質の分解多機能性・機能多様性に及ぼす影響を調べた。特に、腐肉が土壌微生物群集の炭素基質分解機能に与える影響は森林タイプ間で異なるか、また、腐肉が土壌微生物群集の炭素基質分解機能に与える影響に昆虫はどのように働くかを調べた。
本研究は紀伊半島南部の北海道大学和歌山研究林で2021年と2022年の夏季に行った。天然林と人工林それぞれにシカ頭部を設置した腐肉設置プロット、コントロールプロット、また2022年のみ防虫ネットプロットを設置し、腐肉が白骨化するまで可能な限り毎日観察した。白骨化後に腐肉直下の土壌を採集し、エコプレートを用いて炭素基質の分解機能活性を測定して、分解多機能性・機能多様性を評価した。
腐肉が土壌微生物の分解機能に与える影響を調べたところ、2021年は天然林よりも人工林で土壌微生物の多機能性・機能多様性が大きく増加することがわかった。これは人工林の貧栄養な環境が腐肉による爆発的な微生物の増殖をおこした可能性と天然林の機能多様性の高い土壌では腐肉による攪乱の影響を受けにくいことの二つのメカニズムが考えられる。また、腐肉を訪れる昆虫の個体数が増えると土壌微生物の多機能性・機能多様性が下がることがわかった。これはシデムシ科の昆虫が腐肉に塗布する抗菌物質が土壌微生物へ影響を与えている可能性がある。


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