| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) F03-06 (Oral presentation)
近年、シアノバクテリアが大量発生しアオコが増加している。植物プランクトンを宿主とする寄生性ツボカビは宿主個体群動態の決定要因の一つであるが、シアノバクテリアに寄生するツボカビについては研究例が少ない。培養実験によって、ツボカビによる寄生が原因でPlanktothrixが断片化することが示されているが、自然環境中での挙動は未解明である。本研究では、自然環境下にてツボカビに寄生されたDolichospermum属を対象に、断片化だけではなく栄養細胞と窒素固定を行うヘテロシストと休眠胞子であるアキネートの数に着目した。
宿主は琵琶湖に生息しているDolichospermum属3種である。また、ツボカビの寄生が確認された細胞のタイプ(栄養細胞、ヘテロシスト、アキネート)を記録した。採水は7月~10月にわたって週2回のペースで行った。寄生についての計測(密度推定、感染群体と非感染群体の各細胞数の計測)と統計処理を行った。
D. affineが他種に比べ多く出現し、感染率はD. affineとD. macrosporumの2種共に7月に最も高くなっていた。感染群体と非感染群体間で各細胞タイプ数を比較した結果、感染群体のD. affineとD. macrosporumには、非感染群体よりも多くヘテロシストとアキネートが確認された。また、ツボカビの寄生初期段階と成熟胞子嚢段階では、宿主群体の細胞数に差は確認されなかった。これは感染後に宿主が細胞数を変えているというよりも、ツボカビが優先的に細胞を多く生成している群体に寄生した結果であろう。群体の断片化について調べるためにアキネートの位置関係を比較した結果、感染群体の方が群体の端にアキネートが存在している割合が多かった。また、ヘテロシストへの寄生が確認されたことから、水中内の窒素固定量に負の影響を与える可能性がある。