| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) F03-09 (Oral presentation)
2011年3月に発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故によって,多量の放射性物質が福島県の周辺地域に飛散した.放出された主要な核種の一つである放射性セシウム137(137Cs)は,物理学的半減期が約30年と長い.そのため,137Csは事故から10年経過時点においても初期量の約80%が残存する.被曝による人間の健康上の懸念という観点とともに,生態系機能保全の観点からも137Csの環境動態は重要なモニタリング対象となっている.
本研究では,クモ目ジョロウグモ科のジョロウグモ(Nephila clavata)を対象種とし,食物網を介して捕食者へと移行する137Csについて調査を行った.ジョロウグモは,生食連鎖・腐食連鎖から様々な獲物を摂取する造網性クモであり,陸生昆虫だけでなく水生昆虫も捕食している.そのため,ジョロウグモ体内の137Cs濃度は森林および河川生態系における137Csの移動を反映していると考えられている.しかし,陸域,水域に対する137Cs移行の依存度などはこれまでに特定されていない.
本研究では捕食者のサンプルから餌資源のDNAを検出可能なDNAメタバーコーディング手法を用いて,福島のジョロウグモにどのような餌候補が捉えられているか具体的に特定することを目的とした. 対象サンプルには,福島県内の河川沿いおよび内陸部で採取したジョロウグモの消化管および網(クモの巣)を含めた.
本研究では,全ての種類のサンプルからハエ目の昆虫を中心とした餌資源が検出された.主に水辺で発生するユスリカやヌカカの生息域はある程度河川から離れた地域もカバーしていることが分かった.また,クモの網から検出された種の数は,消化管からのものよりも比較的多様性に富む傾向があった.サンプルの種類によるDNA情報保持能力の違い,あるいは網にかかった餌資源の一部のみをクモが捕食している可能性などが示唆された.さらに,同じハエ目の中でも,網から検出されやすい分類群(科)と消化管から検出されやすい分類群が見つかった.