| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) G01-03  (Oral presentation)

樹形構造がもたらす樹木個体内の遺伝的多様性の解明【B】
Branching architecture contribution to the within-individual genetic diversity of Long-lived trees【B】

*富本創, 佐竹暁子(九州大学)
*Sou TOMIMOTO, Akiko SATAKE(Kyushu Univ.)

樹木の生長で樹形構造が形成される過程では、確率的に体細胞変異が生じ、枝ごとに異なるゲノムをもつ遺伝的に多様な個体が形づくられる。こうした変異は枝から種子へと受け継がれるため、個体内の遺伝的多様性が樹木集団の遺伝的多様性へ寄与することが示唆される。しかし樹形構造が個体内の遺伝的多様性に及ぼす影響はわかっていない。現在「個体内の各枝のゲノム情報をもとに系統樹を描くと、個体が持つ樹形構造と一致する」という仮説が受け入れられているが、実際にその関係が成り立つかは自明ではない。本研究ではこの仮説について、どの様な条件で成り立つのか数理モデルを用いて解明した。モデルでは任意の樹形構造の下で、枝の幹細胞に体細胞変異が生じて蓄積する過程を再現し、枝間の変異数を計算した。仮説のもとでは、枝間の変異数は枝間の物理距離(枝長)に比例する。そこで、比例の関係が成り立つ条件を解明するため、I「枝が伸びて変異が蓄積する過程」と「枝分かれで新しい側枝に変異が受け継がれる過程」について異なるモデルを仮定し、それぞれの過程でどの様な幹細胞の動態が比例関係をもたらすのか検証した。次に、個体の樹形構造が枝間の変異数に与える影響に注目し、IIどの様な樹形構造の下で枝間の物理距離から予想されるよりも枝間の変異数が多くなるのか調べた。結果、I枝内の幹細胞間に変異がないこと(幹細胞集団内の均一性)、および、枝分かれで変異が偏りなく受け継がれることが、仮説が成り立つ条件であることを解明した。加えてII バオバブのような、分枝するまでの幹が長く、長い側枝をもつ樹形構造は、比例関係から予測されるよりも多くの枝間の変異をもたらすことを示した。今後、このモデルをもとに個体内に遺伝的多様性をもつ樹木集団をモデル化し、異なる樹形構造をもつ樹木種で体細胞変異が集団の遺伝的多様性へ果たす役割の違いを明らかにしたい。


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