| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) G01-05 (Oral presentation)
ブナ科は受精遅延という受粉後に花粉管の伸長が停止することで受粉から受精まで数週間から数か月かかるユニークな形質を持つため、結実タイミングは1年成(開花と同年に結実)と2年成(開花の翌年に結実)の2つ存在する。この結実タイミングはブナ科内でも各属で偏るが、コナラ属のみ1年成・2年成の割合が半々である。このコナラ属の特異性と、コナラ属がブナ科の中でも最近分岐した属であることを踏まえ、コナラ属の結実形質は現在進化の途中にあると考えた。1年成・2年成のどちらがコナラ属の祖先的な結実形質かを明らかにし、現在の種が持つ結実形質と照らし合わせることで、結実形質の今後の進化を推測できる。しかし、コナラ属の祖先的な結実形質を示す化石は未だ見つかっていない。よって本研究では1年成・2年成のどちらが祖先形質なのかを推定し、結実形質の進化過程や形質間の変化のしやすさ(遷移率)を明らかにした。推定にはベイズ法を用い、コナラ属197種とコナラ属以外の5属10種で構成される系統樹を使用した。また、コナラ属を構成するQuercus節、Lobatae節、Cyclobalanopsis節、Ilex節、Cerris節に他属を加えた6グループにおいて、どのグループ間で遷移率が同じでどのグループ間で遷移率が異なるのか、ということを系統関係も考慮して16通りに分け、モデル化した。各モデルの周辺尤度を比較したところ「Quercus節、Lobatae節、Cyclobalanopsis節+Ilex節+Cerris節、他属はそれぞれ異なる遷移率を持つ」としたモデルが最適となった。このモデルを使用した祖先形質推定の結果、コナラ属の祖先形質は1年成である確率(0.44)よりも2年成である確率(0.56)の方が高いこと、形質の遷移率はQuercus節では低く、Lobatae節とCyclobalanopsis節+Ilex節+Cerris節では高いことが示された。以上の結果より、Quercus節とその他のグループ間では結実形質を決める遺伝子やその発現制御機構が異なっているのではと推測しており、上記の具体的な解明は今後の課題である。