| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) G01-08 (Oral presentation)
生物多様性の創出・維持には、従来、種間の資源競争が駆動する進化が重要であるとされてきた。近年、近縁種間で鳴き声などの性的形質の誤認識による繁殖干渉が多様性の創出と維持に与える影響について注目が高まってきたが、繁殖干渉が近縁種間の形質多様性に与える影響は未解明である。そこで本研究では、近縁2種の繁殖干渉を取り入れた個体群動態モデルに性的形質 x の進化モデルを組み合わせ、繁殖干渉が近縁2種の性的形質の進化的帰結に与える影響を調べた。モデルでは、性的形質が2種間で分化するほど繁殖干渉は弱まるが、その生息地における最適値 xopt からずれるほど捕食圧が増加するというトレードオフを仮定した。また簡単のために、一方の種のみが進化すると仮定した。
数理モデル解析の結果、繁殖干渉による選択圧と捕食圧が同程度の場合には、2つの進化的特異点が生じることが明らかになった。まず、繁殖干渉による選択圧と捕食圧の釣り合うような収束安定かつ進化的に安定な特異点 s* が、 xopt の近くに生じる。一方で、形質変化による捕食圧の減少の感度が繁殖干渉による選択圧変化の感度より高いことにより、最適値から離れた形質において、収束不安定かつ進化的に不安定な進化的特異点も生じる。つまり、この種の性的形質は、s* へ収束するか無限遠へ遠ざかるかという2つの大きく異なる進化的道筋のいずれかを初期形質値に応じて辿ることが分かった(進化的双安定性)。この状況で量的遺伝学に基づく進化シミュレーションやoligomorphic dynamicsによる解析を行った結果、s* における野生型適応度より十分離れた形質での変異型の侵入適応度が大きい場合、突然変異の蓄積や変異幅の大きい突然変異が起こることで、適応度の山を超えて形質が無限遠に離れる方向に進化する挙動を確認した。本研究から、近縁種群集では、捕食者まで考慮すると、形質の不連続的な進化が起こることで多様な性的形質が創出されることが示唆された。