| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) G01-10  (Oral presentation)

チリメンカワニナにおける概日-概潮汐リズムの可塑性と遺伝子発現リズムの網羅的解析
Transcriptome analysis for circadian-circatidal rhythms plasticity in a freshwater snail

*横溝匠(千葉大・院・融合), 高橋佑磨(千葉大・院・理)
*Takumi YOKOMIZO(Grad. Sci. Eng., Chiba Univ.), Yuma TAKAHASHI(Grad. Sci., Chiba Univ.)

月や地球の回転運動がもたらす力は、地球上のあらゆる環境を周期的に変化させる。生物は内在的な時計システムをもつことで自己のリズムを環境サイクルと調和させ、リズミックな環境に適応してきた。環境サイクルはすべての場所で均質ではないため、生物が新規環境へ分布を拡大するときには、従来の生息地のものとは異なる環境サイクルに対処しなければならないことがある。河川では下流ほど潮汐(約12.4時間周期)の影響が強いため、上流から下流への分布拡大には潮汐サイクルへの適応が求められる。河川性巻貝のチリメンカワニナ(Semisulcospira reiniana)は一部の河川で感潮域まで分布が広がっており、非感潮域の集団は概日リズムだけを示すのに対し感潮域の集団は概潮汐リズムを示す。本研究では、チリメンカワニナの集団間で異なる内在リズムが遺伝的な差異によるのかを検証した。非感潮域と感潮域の個体を12時間周期の人工的な潮汐環境に1ヶ月間暴露したあと、恒常条件下での活動リズムと遺伝子発現リズムを測定した。その結果、どちらの集団の個体であっても約12時間周期の活動リズムがみられた。このことは、環境サイクルに応答して可塑的が働き、概潮汐リズムが発現したことを示唆している。一方、遺伝子発現リズムを解析すると、潮汐環境への暴露による概潮汐振動(12.4±3.1 h)を示す遺伝子の増加は、感潮域集団でのみ認められた。12.4時間周期の発現リズムが潮汐環境への暴露によってどれだけ変化したのかを調べ、それをもとにGene Set Enrichment KEGG解析を行なうと、感潮域集団でのみパスウェイが検出された。このことから、概潮汐リズムの発現はどちらの集団も可能であるものの、概潮汐時計の被制御遺伝子や生理経路は感潮域集団の方が多いことが示唆された。これらの結果は、内在リズムの可塑性がチリメンカワニナの感潮域進出に重要な役割を果たすとともに、追随して概潮汐時計との分子ネットワークの遺伝的変化が生じた可能性を示している。


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