| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) G02-02 (Oral presentation)
地域集団の分岐や交雑といった過去の集団動態史の復元は、その種の分布の形成過程や生息環境への適応進化を理解する上での基礎的知見になる。日本列島のメダカ属魚類は主に日本海側に分布するキタノメダカOryzias sakaizumii と太平洋側に分布するミナミメダカO. latipesに遺伝的に分かれる。これら2種は西日本の分布境界域で自然下の交雑集団が知られるが、それ以外の地域における過去の交雑の有無は十分検討されてない。2019-2022年に日本各地27地点から採集した野生個体について (N = 44)、全ゲノムリシーケンス解析を用いて集団遺伝構造と二次的接触による交雑を分析した。ADMIXTUREで集団を分類すると4グループに分かれ、キタノメダカは分布域全体で単独集団になった。ミナミメダカは地理的分布と対応する3つのグループに分かれて、沖縄から九州にかけて分布する九州西部集団、九州東部から紀伊半島までの西日本集団、および紀伊半島から東北地方の東日本集団にまとまった。これら4グループ間の交雑を評価するため、日本産2種と遺伝的分化が知られる朝鮮半島の集団に由来する飼育系統HSOKを外群として、ABBA-BABAテスト(Patterson’s D)とadmixturegraphで交雑シナリオを構成した。その結果、キタノメダカはミナミメダカの東日本集団と双方向に交雑していたことが示唆された。この傾向は採集地点ごとに細分化した分析で一貫して支持されたことから、特定地域で生じた交雑ではなく、過去に生じた交雑イベントを反映するだろう。キタノメダカ全体がミナミメダカと交雑を経験した集団であることが示されたので、これらの集団動態史の詳細を復元するには、朝鮮半島や中国のメダカ属魚類の野生集団を外群として含めた解析が必要になる。