| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) G02-03  (Oral presentation)

協力性の進化を可能とする社会選択と集団選択の統合化された作用
The integrated effect of social selection and group selection in the evolution of cooperation

*田中嘉成(上智大学)
*Yoshinari TANAKA(Sophia University)

  生物の利他性の進化は、主に血縁選択、集団選択、直接互恵性、間接互恵性、ネットワーク互恵性の5つのカテゴリーに大別される理論枠で説明されてきた。本研究は、社会選択と集団選択の相互作用が協力性の進化を説明し得ることを、量的遺伝モデルによる進化シミュレーションによって示す。群れ生活を営む生物を想定し、群れ(グループ)内の個体を等しく有利にする特性を向社会性とする。その一方、向社会性の高い個体はグループ内の他個体から選好されると仮定する。すなわち、向社会性は、グループ内の社会選択に曝される。社会選択は、向社会性の高い個体を有利にするばかりでなく、向社会性の低い非協力的な個体に対する警察行動(ポライシング)や懲罰行動(パニッシュメント)も含み、ここでは社会的選好性と総称する。しかし、社会的選好性には、何らかのコストが伴うのが普通と考えられ(利他的懲罰行動)、そのコストを補う適応上の利得が必要となる。向社会性は、グループ全体の存続可能性を高める行動なので、群内の他個体との協力行動を促進することによって、グループの適応度に寄与すると考えられる。すなわち、向社会性は、集団を有利にすることから集団選択の作用を受ける。しかし、一般的に、強い集団選択のためにはグループ間で高い遺伝的分化が維持されることが必要であり、その条件は厳しいと考えられている。社会的選好性はグループ内の向社会性の頻度を高くする傾向にあるため、弱い集団選択でも社会的選好性のコストを上回る利益をもたらすかもしれない。以上のシナリオを、量的遺伝モデルで表現し、数値シミュレーションを行った。その結果、グループ選択とグループ内の社会選択の相互作用が向社会性の進化を大きく促進すること、そのどちらが欠けても向社会性の進化はもたらされないことが示唆された。


日本生態学会