| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) G02-08  (Oral presentation)

オオヨツハモガニのオスの最終脱皮前後における繁殖戦術の比較
The Comparison of reproductive tactics in pre- and post- terminal moult male kelp crab, Pugettia ferox

*深澤藍子, 和田哲(北海道大学)
*Aiko FUKASAWA, Satoshi WADA(Hokkaido Univ.)

オオヨツハモガニPugettia feroxのオスでは、生涯最後の脱皮である最終脱皮において鋏が肥大化する。オスは最終脱皮前から成熟しているため、本種の成熟オスには、大鋏型 (αオス) と小鋏型 (βオス) の二型が存在する。本種と同じクモガニ上科の他種では、鋏の二型と一致した繁殖戦術の二極化が知られ、αオスのみがメスを交尾後にガードし、βオスはガードしない。本発表では、オオヨツハモガニにおけるαオスとβオスの配偶行動を比較した結果を紹介する。
実験1では、雌雄各1個体を入れた水槽で、オスによる交尾の有無・合計交尾時間・ガード行動の有無を記録し、以下の2群間で比較した; α群 [αオス, メス]、β群 [βオス, メス] (各n = 57, 53)。実験2では、オス2個体とメス1個体で構成される以下の3群間で、観察対象としたオスの配偶行動を比較した; αα群 [αオスx 2, メス] 、ββ群 [βオスx 2, メス]、αβ群 [αオス, βオス, メス] (各n = 53, 49, 53)。
その結果、実験1,2の両方でαオスはβオスより交尾頻度が低く、合計交尾時間が短かった。例えばα群のαオスの交尾頻度は29.6%に留まった一方、β群のβオスの交尾頻度は66.0%であり、αオスの繁殖活性はβオスより低かった。本実験は繁殖期後半に実施したため、αオスが野外で交尾を経験し、精子枯渇していた可能性がある。一方で、本種は潮間帯に高密度で生息し、共食いを含む死亡リスクが高いため、βオスは最終脱皮前に積極的に交尾を試みる戦術を取っているのかもしれない。さらに、実験1におけるαオスとβオスのガード頻度に有意差は認められなかったほか、実験2でαβ群とββ群でβオスの交尾頻度にも有意差は認められなかった。これらの結果から、少なくとも本実験を行った繁殖期の後半には、αオスとβオスの間に繁殖戦術が二極化しておらず、また繁殖上の優劣関係もないことが示唆された。ただし、繁殖期前半における二型の繁殖戦術や優劣関係も精査する必要があるだろう。


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