| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) G02-11  (Oral presentation)

ブラウントラウトの睡眠生態:いつ・どこで・どんな個体が眠るのか
Sleep ecology in brown trout: when, where and what individuals sleep?

*古澤千春, 小泉逸郎(北海道大学)
*Chiharu FURUSAWA, Itsuro KOIZUMI(Hokkaido Univ.)

 動物はなぜ眠るのか?睡眠は、記憶の統合や神経系の回復など多くの利点がある一方で、睡眠による意識の低下は捕食されやすい状況を招いたり、採餌や繁殖などの能動的な行動を妨げるといったコストが生じる。このようなトレードオフの下、生態学的な要因によって影響を受け、野生動物の適応的な睡眠パタン(眠るタイミングや場所)は形作られていると考えられる。しかし、睡眠は動物界において普遍的に存在するにもかかわらず、適応進化の観点からあまり研究されてこなかった。
 多くの動物と異なり、サケ科魚類は生態学的な条件(水温や社会的地位)によって活動リズムが変化し、同じ種でも昼行性や夜行性の個体が出現する。活動リズムの変化は睡眠にも影響すると予想されるため、どのような個体がいつどこで眠るのかを調べることによって、自然選択の淘汰圧が推測でき、睡眠の適応的意義の理解に役立つと考えられる。昨年、私たちはサケ科ブラウントラウトの行動基準をもとに睡眠の存在を明らかにした。野外でも睡眠のような行動が観察されているものの、それは定量的に調べられていない。
 本研究では、睡眠の行動基準である覚醒閾値を用いてブラウントラウトの睡眠パタンを定量的に調査した。2022年の夏季および冬季に北海道幌内川で、昼夜のさまざまな時間帯に潜水観察および微小生息地の測定を行った。その結果、睡眠のタイミングは冬の方が昼間に偏り、低水温時に夜行性に偏るというサケ科の活動性の変化と一致した。睡眠時の微小生息地は休息時に比べて、両季節共に流速が遅く 基質が大きく カバーの多い環境だった。また、冬季には水深が深く、体サイズの大きな個体ほど眠っていた。これらのことは、本種が捕食者からの視覚的な感知を妨げ、エネルギー消費を抑えられる環境で眠ることを示唆している。また、睡眠個体および利用環境の季節的変化は、水温の低下に伴う捕食圧の増加によって生じているかもしれない。


日本生態学会