| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) G03-02 (Oral presentation)
「擬態」は捕食を回避するために様々な生物種でみられる戦略であり、植食性昆虫においても非常に多様な分類群で擬態が確認されている。背景に溶け込む「隠蔽擬態」は最もよく見られる擬態だが、鳥の糞・枯れ葉・枝などの捕食者が興味を示さないような物体に外見を似せた場合は「マスカレード擬態」と呼ばれ、少数派ながらも様々な分類群で進化した形質である。近年、新たなマスカレード擬態と思われる現象として、オオミドリシジミ幼虫の枯葉擬態行動が演者の野外観察から見出された。興味深いのは、擬態する枯れ葉自体を幼虫自らが作り出すことである。体色だけではなく、枯れ葉の葉脈まで幼虫体節で表現された見事な擬態に見えるにも関わらず、野外の行動観察から見えてきたのは、枯れ葉擬態の効果を最大化するための画一化された行動がみられないということであった。
枯れ葉創出のための葉脈かじり行動は終齢幼虫のごく初期に、おそらくただ一度発現し、その後追加されることはないと考えられた。かじってしおれさせた葉は、摂食および静止場所として用いられ、特にしおれさせた葉が枯れて灰色になってきた頃に静止場所としての利用が増えるという共通の傾向が認められた。しかし、静止場所は、緑の葉の裏/茎や葉柄/しおれさせた葉付近/葉を糸で綴った巣、と様々であり、必ずしおれさせた枯れ葉のみを利用するわけではなかった。巣を作るかどうかも個体差があり、作った場合でも常に利用するわけではなかった。摂食部位も緑の葉としおれさせた葉の両方を蛹化直前まで利用し、しおれさせた葉がある場合でも必ずしも利用するわけではなかった。
このように、オオミドリシジミ幼虫における、行動が画一的ではない擬態現象について、他の種に見られるような「画一化された」擬態行動との比較をしつつ、現象の解釈について適応的意義や系統進化の道筋も考慮して議論する。