| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) G03-03 (Oral presentation)
花を訪れる多くの昆虫は、植物の受粉を助ける。昆虫はどのように花を認識し、訪花するのだろうか?カザリショウジョウバエは、ノアサガオをはじめとする特定の花に選択的に訪れる。本種には遺伝学ツールが導入できるため、遺伝学的なアプローチから訪花行動の神経機構を解明できるかもしれない。本研究では、訪花行動の神経機構を明らかにするためのステップとして、本種が花のどのシグナルを訪花の手掛かりにしているのか、また光を受容する複眼の性質を調べた。
カザリショウジョウバエが花のどのシグナルを訪花の手掛かりにしているか調べるための行動実験をおこなった。まず、視覚情報のみで訪花するか調べるため、アサガオの造花をハエに提示した。またノアサガオの画像と灰色円を同時に提示した。ハエは造花に訪花し、ノアサガオの画像に多く着陸したことから、ノアサガオの匂いは必要なく、二次元の情報のみで花を認識できることがわかった。次にノアサガオの画像を選んだことが、花の模様や明るさの違いではなく色覚による弁別なのかを調べるため、主観的明度を揃えた異なる色の円盤を提示したところ、青色円を選んだ。このことから、本種に色覚があり、青色に選択性を持つことがわかった。この青色とノアサガオは類似した反射スペクトルを持つことから、本種が色覚でノアサガオを認識していることが示唆された。
こうした行動を示す本種が訪花に適した複眼の性質をもつのか調べるため、網膜電図を測定し、網膜の分光感度をもとめ、非訪花性のキイロショウジョウバエと比較した。すると両種とも紫外線に最も高い感度を示し、青と橙色領域に小さな感度のピークを示した。一方で波長全体に対する440nm(青色)付近の光への感度はカザリショウジョウバエの方が1.5倍程度高かった。この波長付近の光はノアサガオの花弁がよく反射しており、本種が野外でノアサガオを認識するのに役立っている可能性がある。