| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) G03-06  (Oral presentation)

アリの巣構造と営巣速度は女王の個体数によって変化するのか?【B】
Do the nest structure and nesting speed of ants change with the number of their queens?【B】

*青木烈士, 平岩将良, 澤畠拓夫, 早坂大亮(近畿大・農)
*Retsushi AOKI, Masayoshi HIRAIWA, Takuo SAWAHATA, Daisuke HAYASAKA(Fac. Agr., Kindai Univ.)

真社会性のアリ類は,産卵を行う女王(Q)と産卵以外の仕事を担う働きアリ(W)など,明確な分業体制が構築されている.なかでも,働きアリが行う「営巣」は,産卵場所や外部環境に対する防御となる巣に関わるため,集団の存続に不可欠な行動のひとつである.そのため,営巣行動の生態学的意義について多くの研究が進められてきた.しかし,多くの場合,働きアリのみを対象に研究が行われており,現実に即したもの(女王を含む同種他個体の集団)とは言い難い.実際,女王は営巣に直接関与することはないが,働きアリは女王の存在や個体数によって行動の質を変化させ得る.ゆえに,営巣においても同様に,女王の存在が働きアリの営巣行動に作用する可能性は否定できない.そこで本研究では,真社会性昆虫の分業を介した行動メカニズムのさらなる理解にむけ,特に営巣行動に着目し,女王の有無及び個体数(単女王・多女王)が巣構造(巣の深さ,部屋の数)と営巣速度にもたらす影響を調査した.トビイロシワアリを用いて,単女王(W=60,Q=1),多女王(W=60,Q=3),女王不在(W=60,Q=0)の3つの条件を設定し,巣箱で1週間営巣させた.試験の結果,巣構造(巣の深さ,部屋の数)に条件間で有意な差はなかった.このことから,女王の存在は巣の構造に影響を与えないと考えられる.ただし,試験温度はアリ類の生息最適温度の範囲内ではあったが,本種が営巣に好む温度(27~30℃)よりも低かったため,巣構造に差が生じなかった可能性がある.他方で,営巣速度は女王存在の条件下で有意に遅かった.これは,女王の存在で働きアリの労働コスト(営巣,採餌等)に不均衡が生じ,営巣速度の低下に波及した可能性を示唆するものである.アリ類は営巣速度が遅ければ,長時間にわたり外部環境からの影響を受け続けるだろう.本研究は,女王の存在が働きアリの営巣行動,特に営巣速度に強く作用する可能性を示す重要な基盤データである.


日本生態学会