| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) G03-09 (Oral presentation)
近年、ニホンジカなどによる獣害が各地で深刻な問題となっている。獣害対策には野生動物の生態や行動を把握する必要があるが、詳細が分かっていない動物は多い。とくに動物の土地利用は獣害発生を予測するうえで重要な情報である。そこで本研究では、広島県東広島市鷹ノ巣山の山頂付近にあるブナ残存林(標高800m)と、それより低地のヒノキ植林地(標高600~700m)および人家周辺(標高400m)のニホンジカの行動を比較し、ニホンジカによる土地利用を考察することを目的とした。
2020年7月から2022年12月にかけてブナ残存林、低地ヒノキ林、人家周辺の3か所に自動撮影カメラを設置し、ニホンジカを撮影した。得られたデータから頭数、雌雄、親子かどうか、2歳未満の単独の若オスの存在、季節、の項目で3か所に差異があるかを解析した。
その結果、ブナ残存林では他の2か所よりも撮影される頭数が少なく、メスと親子、若オスが多く撮影されることが明らかになった。また、人家周辺は山林部と比べて春に、ブナ残存林はヒノキ林と人家周辺と比べて夏に撮影頻度が高くなることが分かった。
これらの結果から、鷹ノ巣山周辺のニホンジカは、群れで行動しないメスが育児のため、若オスが成熟オスとの競合を避けるため、気温が高く食物の種類や量が増える夏は採食や避暑のために、山頂付近にあるブナ残存林を利用することが考えられる。また、ヒノキ林は年間を通して利用することから、ニホンジカの生活の中心になっていると考えられる。春になると農地で栽培が始まるため、人家周辺にニホンジカが出没しやすく、獣害の発生につながると考えられる。
本研究によって、ニホンジカは季節に応じて土地の利用方法を変えることと、利用する個体の属性に特徴があることが示唆された。今後は個体追跡も実施して、地域に即した獣害対策を考える。