| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) G03-10  (Oral presentation)

草地でイノシシはどんな場所を狙って掘り起こすのか?
Clarification of the rooting site by wild boars in grassland

*梅田悠起(近畿大・農), 平岩将良(近畿大・農), 幸田良介(大阪環農水研・多様性), 澤畠拓夫(近畿大・農), 早坂大亮(近畿大・農)
*Yuki UMEDA(Fac. Agr., Kindai Univ.), Masayoshi HIRAIWA(Fac. Agr., Kindai Univ.), Ryosuke KODA(RIEAFO, Biodiv), Takuo SAWAHATA(Fac. Agr., Kindai Univ.), Daisuke HAYASAKA(Fac. Agr., Kindai Univ.)

特有の生態系を形成している草地は、一部の草地を除いて主に攪乱によって維持されてきた。しかし、高齢化や人口減少が進むなかで人為的攪乱の機会は減少し、草地は減少・荒廃の一途をたどっている。人為的攪乱の減少は、自然攪乱による生態系改変機能の重要性が相対的に高まる可能性があることを意味する。自然攪乱のひとつである野生動物による攪乱は、継続的な発生が期待できる。なかでも、イノシシはほかの野生動物とは異なり、「掘り起こし」を介して、地下部に対しても直接的な影響を及ぼし得る。これはすなわち、生態系エンジニアとして高い機能を有している可能性を意味する。しかし、イノシシは従来から害獣として捉えられることが多く、生態系エンジニアとしての側面で、掘り起こし攪乱の重要性を評価した事例はみられない。そこで本研究では、目的達成に向けた基盤情報を収集すべく、草地におけるイノシシの掘り起こしの実態を調査した。近畿圏内の3つの草地(A、B、C)で、掘り起こし場所の特徴づけ(土壌環境や地形等)をおこなった。その結果、掘り起こし場所の特徴に地域差が見られた。A草地では土壌硬度の低い場所で、C草地では土壌含水率の高い場所で、それぞれ有意に掘り起こされる傾向にあった。本種が採餌のために掘り起こしすることを考慮すると、このような土壌環境では土壌動物が多い可能性が示唆される。また、草地の規模が大きいA草地では林縁から近い場所で有意に掘り起こされる傾向にあったが、規模の小さいB・C草地では、林縁からの距離と掘り起こしとの間に有意な関係性はなかった。これは、警戒心の強い本種が外敵からの発見率を下げるためのものだと思われる。以上より、土壌が柔らかく水分量の多い立地、または大規模な草地では林縁から近い場所で、掘り起こし攪乱が発生しやすい可能性が示唆された。今後は、イノシシの掘り起こし深度・規模に応じた植生の応答を明らかにする。


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