| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(口頭発表) H01-05 (Oral presentation)
滋賀県多賀町の高室山は鈴鹿山脈の中央部に位置する石灰岩質の山で、山頂部はかつてススキが優占する草原であった。現在はニホンジカの過採食により植生が激変しており、山頂部周辺の元ススキ草原には外来植物のアメリカオニアザミ(以下、アメオニ)が定着している。本研究では、高室山においてアメオニの生育状況も含めたシカ過採食下の植生の現状を記録し、インターネットの情報からススキの衰退時期やアメオニの定着時期を推定することを目的とした。
高室山の山頂部を対象として4つの調査を行った。1.アメオニ生育地の植生を評価するため、アメオニの生育場所に1m×1mの調査枠を30個設置し出現した植物の種名と被度を記録した。その結果、露岩の多さに関わらず、アメオニが優占する場所は、スズメノカタビラ、タチイヌノフグリ、ヌカボ、トキワハゼ、オランダミミナグサなどの路傍などに生育する一年草や越年草が高頻度で出現した。2.山頂部を横断する2本のライン状の調査区を設置し、5mおきに1m×1mの調査枠内に出現した植物の種名と被度を記録した。その結果、イワヒメワラビ、アメオニ、ベニバナボロギク、メヒシバが優占する4種類の群落が認識でき、これらの山頂部での分布には偏りがあった。3.GPSを用いてアメオニの花茎をマッピングしたところ山頂部全体で1,253本のアメオニの花茎が記録され、その分布は山頂の西側に偏っていた。4.インターネット上で高室山の写真を探したところ2008年にはススキが優占していたが2015年には植生がほぼ消失していたことがわかった。また、登山アプリYAMAPに投稿された写真からアメオニは2020年以降、山頂部で拡がり出したことが推察された。
以上の結果、高室山では、2010年代以降にシカの過採食でススキ群落から短命な路傍雑草やシカ不嗜好性植物の群落に変化し、その後2020年ごろからアメオニが拡がりつつあることが明らかになった。