| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) H01-06  (Oral presentation)

山陰の森林下層植生衰退と糞分析に基づくシカの食性
Decline of forest understory vegetation in the San-in region and deer diet based on fecal analysis

*永松大, 足立瑞樹(鳥取大学)
*Dai NAGAMATSU, Mizuki ADACHI(Tottori Univ.)

近年、ニホンジカの増加や生息域の拡大によって、森林被害が増加している。シカの生息状況を把握するための手法は数多く開発されているが、個体密度だけでなく食性を明らかにすることでシカ個体群の状況をより的確に判断できる。本研究は、山陰の複数地点でシカ糞の分析と森林衰退度の評価を行い、これらの結果からシカ食性の地理的・季節的変化と、森林衰退度との関係について考察した。調査地はA:鳥取県江府町俣野、B:同三朝町笏賀、C:同若桜町若桜鬼ヶ城跡、D:兵庫県朝来市多々良木の4地点とした。各調査地で春・夏・秋の3回、糞の採集を行った。サンプルを水洗いし、残った植物片を80%アルコールで固定し無作為に取り出して光学顕微鏡を用いてポイント枠法で糞内容物を分類した。4ヶ所の調査地ごとの季節変化をSteel-Dwass検定により多重比較した。シカによる森林の衰退程度の評価は下層植生衰退度(SDR)を用いた。各調査地の糞組成は、全て春から夏にかけて双子葉植物が増加した。A.俣野では低木・ササともに植被率が高く、SDRでも衰退は見られなかった。糞分析ではササの割合が多かった。B.三朝では現地でほとんど見られなかったササが、糞分析では春から秋にかけて増加していた。低木層や草本層が不足しており、わずかなササを採食していると思われる。C.鬼ヶ城では糞分析で春に繊維や枯葉が多く、シカの栄養状態は悪かった。SDRでも下層植生の衰退が著しかった。D.多々良木では糞分析でイネ科・双子葉植物の割合が高く、夏の食料は十分であったと思われる。低木が多く、SDRはB.三朝より良好であった。4地点のシカ食性はC.鬼ヶ城が最も悪く、次がB.三朝、続いてC.多々良木、最も良いのがA.俣野だった。SDRもこれに対応していたが、B.三朝はC.鬼ヶ城に次いで悪かった。シカ食性は地域により異なり、SDRと関連していた。シカ食害は鳥取県内でも兵庫県内と同程度か、むしろ悪い状態になっていることが示唆された。


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