| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) H01-08  (Oral presentation)

気候変動に対する日本の冷温帯林、暖温帯林の応答とその地域性
Responses of cool temperate and temperate forests to climate change and their regional patterns in Japan

*遠山弘法(国立環境研究所), 中静透(森林総合研究所), 角谷拓(国立環境研究所), 竹内やよい(国立環境研究所)
*Hironori TOYAMA(NIES), Tohru NAKASHIZUKA(FFPRI), Taku KADOYA(NIES), Yayoi TAKEUCHI(NIES)

温暖化に伴う生物種の北上、高所方向への移動は中緯度~高緯度地域で報告されているが、日本では、個別の観察事例にとどまっており、広域における長期間の生物個体群の変化を検出した研究例はいまだ限られている。種分布モデルを用いた将来予測によると、日本の冷温帯林を代表するブナでは、温暖化に伴う衰退の可能性が示唆されており、一方、暖温帯を代表するアカガシは、ブナの衰退後に侵入する可能性が指摘されている。そこで本研究では、ブナ林とアカガシ林に着目し、温暖化に伴う林分構造の変化を明らかにすることを目的とした。対象としたのは、約35年前に設置されたブナとアカガシが生育する特定植物群落で、全国81か所の森林である。2016年から2021年の間に、過去調査が行われた場所で100m×10mのトランセクトを設置し、森林を構成する樹木群集の組成の再調査を実施した。ブナ・アカガシの胸高断面積の変化・群集組成の変化と暖かさ指数を含めた7つの環境変数との関連について、一般化線形モデルとAICによるモデル選択により解析した。また、地域性を考慮するため、ハプロタイプからブナは3地域、アカガシは2地域に分類した。解析の結果、ブナの胸高断面積は、本州太平洋側・日本海側では暖かさ指数の増加に伴い減少し、九州四国中国では冬の降水量の増加に伴い減少した。一方、アカガシの胸高断面積は、暖かさ指数の変化よりも降水量の変化が増減に寄与していた。また、群集の種組成は、暖か指数の変化量が高い場所で大きく変化していた。これらの結果は、全国のブナ林・アカガシ林ともに環境変化に伴い個体群構造が変化していることを示している。また、地域・樹種・森林タイプにより応答する環境変数が異なっていることから、将来の森林構造変化への対応のためには、環境への応答の地域特性を考慮した、地域ごとの戦略が必要であると考えられた。


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