| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) H02-01  (Oral presentation)

クロヤツシロランの生息地からみる竹林環境のハビタットとしての有用性
Bamboo forest as an habitat for Gastrodia pubilabiata

*山口朝美, 大澤剛士(東京都立大学)
*Asami YAMAGUCHI, Takeshi OSAWA(Tokyo Metropolitan University)

手入れされずに放置された荒廃竹林が全国各地で広がっている。竹林を構成するタケ類は、旺盛な成長力並びに常緑であることにより暗い環境を形成することから、生物多様性や森林の公益的機能を低下させる要因とされている。その一方で近年、絶滅危惧種であるクロヤツシロランGastrodia pubilabiata Y.Sawaの竹林における生育が多数報告されている。クロヤツシロランは菌従属栄養植物であることから光合成の必要がなく、暗く林床の植被率が低いという竹林が形成する環境を好む傾向があるため、竹林の拡大がその生育範囲を広げている可能性がある。ただし、クロヤツシロランは菌従属栄養植物であるため、共生菌が存在しなければ生育ができない。そこで本研究は、「暗所を作り出す竹林」と「共生菌を保持する安定した森林」という条件が揃うことで竹林はクロヤツシロランに生育環境を提供するという仮説の下、問題視されることが多い竹林環境が、絶滅危惧に生育場を提供する可能性を検討した。関東のクロヤツシロラン生育地について標本情報を収集し、採取地周辺における竹林の有無および土地利用を検討した。さらに現地調査を行い、生育環境の観察と周辺の土地を検討した。その結果、標本採取地点および現地調査地点ともに、クロヤツシロランの生育地はおおむね竹林であり、かつ長期的に安定した森林であるという結果が得られた。この結果は、竹林が絶滅危惧種に生育場を提供している可能性を示唆するものである。竹林は一般に生物多様性に対して悪影響を与えるものと考えられてきたが、竹林が持つ生物多様性への正の影響についても理解を深め、適切に管理していくことが重要であると考える。


日本生態学会