| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) H02-02  (Oral presentation)

根子岳の草原性植物の再生を目指すササ刈り実験の費用対効果:5年間の追跡【B】
Benefit/cost of experimental dwarf-bamboo mowing to restore grassland plants on Mt. Nekodake: a 5-year monitoring【B】

*田中健太(筑波大・山岳セ), 加々美貴代(やまぼうし自然学校), 松田貴子(安曇野市豊科郷土博), 松倉実(菅平ナチュラリスト), 井上太貴(筑波大・山岳セ), 芳澤あやか(筑波大・山岳セ, ワーカーズコープ上田), 山本裕加(筑波大・山岳セ, 日本N. U. S.(株)), 小黒和也(筑波大・山岳セ, (株)GAT), 河合純(筑波大・山岳セ), 關岳陽(筑波大・山岳セ, 住友林業(株)), 坂本浩輝(筑波大・山岳セ, 山梨県庁), 宮本和(筑波大・山岳セ), 川本晟司(筑波大・山岳セ, 林野庁), 上倉優(筑波大・山岳セ, 地域環境計画(株)), 滝澤一水(筑波大・山岳セ), 真田地域自治センター産業観光課(上田市), 真田地域教育事務所(上田市)
*Tanaka KENTA(MSC, Univ. Tsukuba), Kiyo KAGAMI(Yamaboushi Nature School), Takako MATSUDA(Toyoshina Folk Museum, Azumino), MinoruMinoru MTSUKURA(Sugadaira Naturalist Club), Taiki INOUE(MSC, Univ. Tsukuba), Ayaka YOSHIZAWA(MSC, Univ. Tsukuba, Worker's cope Ueda), Yuuka YAMAMOTO(MSC, Univ. Tsukuba, Japan N. U. S. Co., Ltd.), Kazuya OGURO(MSC, Univ. Tsukuba, G-A-T Co., Ltd.), Jun KAWAI(MSC, Univ. Tsukuba), Takeharu SEKI(MSC, Univ. Tsukuba, Sumitomo Forestry Co., Ltd.), Hiroki SAKAMOTO(MSC, Univ. Tsukuba, Yamanashi Prefectural Office), Nodoka MIYAMOTO(MSC, Univ. Tsukuba), Seiji KAWAMOTO(MSC, Univ. Tsukuba, Forest Agency), Masaru KAMIKURA(MSC, Univ. Tsukuba, R. E. P. Inc.), Issui TAKIZAWA(MSC, Univ. Tsukuba), Industry & Tourism Division SANADA REGIONAL CENTER(Ueda City), Education Office SANADA REGION(Ueda City)

 管理放棄によって半自然草原の森林化が急速に進み、100年間で全国の90%以上の草原が失われ、草原性動植物の大量絶滅が懸念されている。長野県の根子岳(標高2207m)は北西面から南面までの山麓全体が古代より草原だったが、1970年頃から放牧縮小によって、森林化とササ藪化が進み、山野草や高山植物の生息地が急速に狭まっている。これまで大雪山では温暖化によって増加したササを刈ることで高山植物群落が再生することが分かっているが、ササ藪化の状況や背景が異なる他地域でも効果があるのか、また、どのようなササ刈り方式が費用対効果が高いのかは分かっていない。本研究ではこれらを明らかにするため、根子岳の複数箇所・複数処理からなるササ刈り実証実験の労力と植生回復への効果を調べた。
 登山道から離れた場所に15×48mの試験区を設置し、3×4m区画60個に分けて2015~2020年の10~11月に計6回ササ刈りをした。その際に、(1)対照区、(2)初年のみササ刈り、(3)毎年ササ刈り、(4)初年のみササ刈りして刈取物を持ち出し、(5)毎年ササ刈り・持ち出し、の5処理区を設けた。2016年には約500mの登山道の両側各2m幅で(1)~(3)の処理を施し翌年植生調査を行った。
 ササ刈りの労力は、刈取物の持ち出しを含めることで1.5倍に増加した。ササ刈りによってアキノキリンソウ・マツムシソウ・オトギリソウ・ハクサンチドリ・エゾリンドウなどが回復する効果があり、山野草が比較的多い登山道沿いでは翌年速やかに現れたのに対して、登山道から離れたところでは最初のササ刈りの3年後から効果が現れた。毎年の刈取および除去による光・水分環境の改善効果は最も大きかったが、単年の刈取でも植生回復の効果は見られた。広い面積の草原再生を行う場合の費用対効果は、持ち出しを伴わない単年の刈取で高いと考えられ、特に人目に付く場所では追加的な労力を投入して毎年の刈払や刈取物の除去を行うことが有効だと考えられた。


日本生態学会