| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) H02-04  (Oral presentation)

河川生態系の瀬切れに対する短期的反応:野外操作実験による検証
Short-term ecosystem response to an artificial drought disturbance in Japanese experimental streams

*中川光, 森照貴(国立土木研究所)
*Hikaru NAKAGAWA, Terutaka MORI(PWRI)

河川の流量減少に伴う河道流路の分断(瀬切れ)は、地中海やサバナといった明瞭な乾季を有する気候区においては、ありふれた季節的撹乱イベントであり、その地域の群集・生態系動態を規定する重要な要素である。一方、現代においては、農工業用水や飲料水確保のための過剰取水や地球温暖化に伴う世界的な気候変動の影響によって、これまで瀬切れを生じることがなかった河川においても、大規模な瀬切れが報告されるようになった。こうした地域の河川性生物は、基本的に瀬切れという撹乱イベントに対する適応的背景を有していないことが予想され、瀬切れの発生場所や期間、頻度の増加による生物多様性への悪影響が懸念されている。しかし、これまで新規の瀬切れ発生地点における生態系の反応調査は、多くが事例報告的な内容に留まっており、特に瀬切れの影響の将来予測において重要な、瀬切れが河川生態系の生物多様性を減少させる生態学的プロセスおよびそのメカニズムの理解が進んでいなかった。そこで本研究では、流量操作が可能な実験河川を用いて、特に瀬切れ発生直後の河川生態系の短期的な変化に注目して、高頻度モニタリングによる生態系反応のプロセス及び背景メカニズムの解明を試みた。2022年7月に河川水量を操作して通常水量 (0.1 m3/s)、低水位 (0.01 m3/s)、渇水 (< 0.001 m3/s) の状態を順番にそれぞれ1週間づつ維持し、非生物環境(水質、水温、溶存酸素濃度)、生物環境(クロロフィル量)および底生動物の生息密度のモニタリングを渇水時に分断水域となる淵およびそれに隣接する瀬で毎日行った。また、実験の最後に淵において魚類の密度調査を行った。本発表ではこの実験で得られた結果をもとに、瀬切れによる生物・非生物環境の変化が河川生態系の各構成種に与える影響および瀬切れ時に残された分断水域の「避難場所」としての機能について検討する。


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