| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) H02-06  (Oral presentation)

湧水を用いた無施肥レンコン栽培:レガシー窒素の浄化と生物多様性保全機能
Use of nitrogen legacy as a resource: unfertilized lotus fields contribute to water quality improvement and biodiversity conservation

*松﨑慎一郎, 高津文人, 渡邊未来, 今藤夏子(国立環境研究所)
*Shin-ichiro MATSUZAKI, Ayato KOHZU, Mirai WATANABE, Natsuko I KONDO(NIES)

農地が広がる流域では、長年、施肥された窒素の余剰分が土壌や地下水に蓄積しており、レガシー窒素と呼ばれている。レガシー窒素が存在する限り、窒素施肥量を大きく減少あるいは無施肥にしても、下流にある河川や湖沼の水質が改善するまでに長い時間を要する。農業生産と環境保全の両立を考える上で、レガシー窒素の解決は大きな課題の一つである。
 本研究では、印旛沼流域に位置し、果樹園等が広がる台地の谷津で、湧水を引き込み、無施肥でレンコンを生産する圃場に着目し、このハス田がレガシー窒素を除去する機能をもつか、また生物多様性の保全にも効果があるかについて調べた。
ハス田に流入する湧水を採水し分析した結果、硝酸濃度は高かった。また、六フッ化硫黄を用いた湧水の滞留時間は約10年と推定された。このことから、レガシー窒素が蓄積されていることが示唆された。一方、ハス田の流出水を分析した結果、湧水がハス田を通過することで硝酸態窒素濃度、全窒素濃度が大きく減少することがわかった。ハス田内での植物プランクトンの発生により、懸濁態窒素濃度がやや増加したが、全窒素濃度に占める割合はごくわずかであった。ハス田は、脱窒やハスによる吸収等を通じて、レガシー窒素を減少させていると考えられた。
 また、環境DNAメタバーコンディングを用いて、ハス田の魚類群集について調べ結果、計10種群の魚種が検出された。その中には、絶滅危惧種のミナミメダカとホトケドジョウも含まれた。
以上のことから、レガシー窒素を利用しレンコンを無施肥栽培することが、水質の浄化、生物多様性の保全に貢献することが示唆された。生態系機能を活用している点から、Nature-based solutionsの一つの事例としても提案したいと考えている。


日本生態学会