| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) H03-04  (Oral presentation)

樹木を利用した訪花昆虫多様性モニタリング:市民科学における展開を目指して
Monitoring diversity of flower-visiting insects using trees: Aiming at citizen-collaborative expansion

*中村祥子, 井上真理子, 井上大成(森林総研)
*Shoko NAKAMURA, Mariko INOUE, Takenari INOUE(FFPRI)

送粉サービスを提供する野生訪花昆虫の多様性や数は、生息地である森林や草地等の自然生息地の消失等に伴い減少している。その一方、近年では、都市近郊林や都市の市民農園における送粉サービスへの需要が拡大している。日本の野生訪花昆虫の調査報告は、農地が多く、都市域の野生訪花昆虫の多様性や分布の実態は十分明らかでない。都市域において野生訪花昆虫による送粉サービスの供給量を増加させ、積極的に利活用するためには、それぞれの都市域の野生訪花昆虫の多様性や分布実態の解明が必要である。しかし、そのような野生訪花昆虫のモニタリング調査には、人員と多大な労力がかかり、研究者による従来型の調査では、多地点でのモニタリングは困難だった。さらに、都市域における野生訪花昆虫の保全には、住民の間で野生訪花昆虫の役割に対する社会的認知向上を図り、保全へのコンセンサスを形成する必要がある。そこで、市民の協力を得た訪花昆虫モニタリングにより、①日本中の都市域の野生訪花昆虫の多様性の実態を解明し、②野生訪花昆虫の重要性に関する社会的認知向上・愛着形成を図る、の一挙両得を目的とし、一般市民にも簡単に実施できる、樹木を利用した訪花昆虫の多様性モニタリング手法の開発に着手した。本手法によるモニタリングを各地で展開することで、自治体や市民団体が必要な場所で必要な保全策を実現できる社会環境の整備が可能となる。手法開発一1年目となった2023年は、訪花昆虫の多様性モニタリングに適した樹種の候補を選定するため、都市近郊林である多摩森林科学園内の複数樹種において訪花昆虫を網羅的に捕獲し、その多様性を調べた。本報告ではその結果を紹介し、市民参加型モニタリングの実施に向けた課題についても議論したい。


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