| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(口頭発表) H03-05  (Oral presentation)

土壌由来の温室効果ガス削減をめざす市民科学プロジェクト「地球冷却微生物を探せ」
Citizen science project "Explore Global-Cooling Microbes" aims to reduce soil greenhouse gas emission

*大久保智司, 青木裕一, 加藤広海, 菊地美穂, 戸田聡一郎, 佐藤修正, 南澤究(東北大学)
*Satoshi OHKUBO, Yuichi AOKI, Hiromi KATO, Miho KIKUCHI, Soichiro TODA, Shusei SATO, Kiwamu MINAMISAWA(Tohoku Univ.)

土壌環境中の窒素は微生物のはたらきによって形を変え、その一部は温室効果ガスの一種である一酸化二窒素(N2O)として大気中に放出される。特に農地土壌からは多くのN2Oが発生している。我々は、高いN2O消去能力をもった微生物を土壌中から見つけ出すことを目的として、市民科学(シチズンサイエンス)プロジェクト「地球冷却微生物を探せ」(https://dsoil.jp/cool-earth/lab/)を開始した。
密閉容器に土壌を入れると、多くの場合は土の中からN2Oが発生して容器内のN2O濃度が経時的に上昇する。しかし、まれに容器内のN2O濃度が下がる、すなわち「N2Oを吸収する」土壌の存在が報告されており、そのような土壌には高いN2O消去能力をもった微生物が存在すると予想される。そこで、日本中の様々な場所や環境で土壌を採取し、N2O発生・吸収速度と微生物群集を網羅的に調べようと考えた。
日本全国から実験参加者を募り、実験キットを送付する。参加者は様々な場所で採った土壌をガラス瓶に入れて密閉し、一定時間ごとに瓶内の気体を採取して真空バイアルに移す。気体の入ったバイアルと土壌を送り返してもらい、実験室でバイアル内のN2O濃度と土壌中の微生物群集を分析する。土を採った時の周囲の環境に関する情報や、土壌のpH、水分量といったメタデータも同時に収集する。分析で得られた各地点のデータは実験をしてくれた参加者に返却し、集まった多数のデータを解析してN2O消去能が高い微生物を探索する。市民参加型の研究は、職業研究者だけでは手に入れるのが難しい大量のサンプルやデータを集められることに加え、参加者と知識や問題意識を共有・議論できるという点で重要なアプローチだと考えられる。本発表では、プロジェクトの詳細と、これまでに集まったデータから見えてきたN2O消去微生物の候補について紹介する。


日本生態学会