| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-001 (Poster presentation)
遡河性サケ科魚類(以下,サケ類と呼ぶ)は、海洋由来の栄養塩を淡水および陸上生態系へ供給する系外資源としての機能を有する。サケ類の生体および死体は様々な生物に利用され、大型捕食者や腐肉食者の個体数や分布に影響を与えることが知られてきたが、産卵後のサケ卵が有する生態的機能については十分に考慮されてこなかった。そこで本研究では、河畔に生息する潜在的な卵捕食者としてカワガラスCinclus pallasiiに着目し、サケ類の産卵が本種の分布に与える影響を評価した。
知床半島の4河川において、サケ類の1種であるカラフトマス(Oncorhynchus gorbuscha)の産卵期(8〜11月)に調査を行った。各河川において、9〜11日間隔でカワガラスの個体数とカラフトマスの産卵床数を数えるとともに、双眼鏡を用いてカワガラスの食性を観察した。また、カワガラスの個体数変化がカラフトマスの産卵によって決定されているのかどうかを検証するため、産卵ピーク期に3つの河川において砂防ダムの上下で個体数を比較した。
カワガラスは産卵期にカラフトマス卵を利用し(餌組成の53.7%)、その個体数は産卵床数に応じて増加した。一方、砂防ダム上流ではこのようなパターンは観察されなかった。これらの結果から、カワガラスの分布は、カラフトマス卵の時空間的な利用可能性に左右されることが示唆された。