| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-007 (Poster presentation)
気候変動に伴う大規模撹乱が生物多様性に深刻な影響を与えている現代において、生態系復元は喫緊の課題とされ、この成功に向けては、撹乱に対する生物群集の応答や群集集合プロセスの理解が不可欠である。近年、気候変動に伴う豪雨によって頻発化している山腹崩壊も大きな自然撹乱の一つである。しかし、山腹崩壊に対する群集応答については不明なことが多く、原因として主に次の2点が挙げられる。1)これまで観測対象が主に植物群集のみであった、2)群集観測は山腹崩壊が生じた局所環境に限られるために反復がなく、頑強なパターンの検出が困難である。
そこで本研究では、前例のない大規模な山腹崩壊実験を設定し、山腹崩壊に対する徘徊性甲虫群集の応答と、その群集集合における決定論的過程と確率論的過程の相対的寄与を明らかにすることを目的とした。特に、1)山腹崩壊地と非撹乱森林の間で群集組成は異なるのか?2)山腹崩壊は群集の種多様性および局所群集間の非類似度を減少させるか?3)山腹崩壊地の環境要因と空間配置の相対的寄与はどのように異なるか?を明らかにする。
北海道大学の天塩、中川、雨龍の三研究林それぞれに、人為的に山腹崩壊を模した方形処理区(35m2、2020年設置)を4か所ずつと森林対照区を2か所ずつ設けた。各区画にはピットフォールトラップを20個埋設し、採集は2021年・2022年7〜8月に行った。
山腹崩壊地と非撹乱森林の間で群集組成は異なっていた。それらの群集間で、種多様性に顕著な違いはなかったが、局所群集間の非類似度は山腹崩壊後群集で高くなる傾向にあった。また、山腹崩壊地の環境要因と空間配置は共に説明力が非常に低かった。以上より、山腹崩壊後の環境がフィルターとして機能しつつ、フィルタリングとともに山腹崩壊地やその類似環境間で種のランダムな移出入が生じている可能性が示唆され、決定論的過程と確率論的過程の両者が重要であることが明らかとなった。