| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-010 (Poster presentation)
夜間の人工光源は、昆虫類を誘引し、さらにそれらを餌とする生物も誘引する。円網を張るクモ類については、光源の近くに網を張った個体の生存率や成長速度が大きいことや、光源の近くに成熟個体が多いことが知られている。本研究は、光源の近くに生息しているズグロオニグモを対象として、光源からの距離と体サイズの関係がどのようなプロセスで生じるのかを明らかにするため、以下の調査を行った。
調査は新潟県長岡市の蛍光灯が設置された駐輪場で、2020年5~10月までの毎月7日間21時から行った。駐輪場内のすべてのズグロオニグモについて、体長と蛍光灯からの距離の計測を行い、体長が5mm以上の個体は油性ペンを使ってマーキングした。また5mm未満の個体は体長計測をせず、目測で2~5mmと2mm以下に分けた。
その結果、すべての期間(月)で光源の近くで個体数が多かったが、大型の個体ほど光源の近くに分布することが多かった。また大サイズの大きな老熟個体が死亡し、小さな新規加入個体が多くなった7月と10月には、その前月の6月や9月に比較してより小さな個体が光源の近くに分布することが多かった。個体の移動距離は、体長8mm程度の中型個体で最大となった。
以上のことから、ズグロオニグモはある程度成長すると餌条件のよい光の近くに網を張ろうとするが、既にその場所を占める大型個体により追い出され、移動距離が大きくなると考えられる。大型個体の死亡などで光の近くが空くと、そこに中型個体が網を張ることができるのではないだろうか。人工光源によって生じた餌場の異質性は、大~中型個体は自身で移動することにより補償可能だが、小型個体にそれはできないのかもしれない。その結果、小型個体の適応度は、たまたま引き当てた餌場の質に影響される可能性がある。人工光源の影響として、その周辺での個体に注目した研究は多いが、そこに集まる以前の個体に注目する必要があるだろう。