| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-011 (Poster presentation)
近年、シカの増加率は大きく、生態系に大きな影響を及ぼすようになっている。また、シカによる農業被害や鉄道衝突事故に代表されるような運輸業へ与える被害も甚大である。生態系、農業、運輸業をはじめとした社会全体に影響を与えることから、有効な獣害対策の策定は喫緊の課題である。そこで本研究では、シカとヒトが接触しやすい条件を導き出すことを目的とした。これまで用いられてこなかった、データ駆動型アプローチによりシカとヒトの遭遇状況の予測を行った。京都大学フィールド科学教育研究センター芦生研究林において2006年から2021年までに収集された2万件以上の目撃データをもとにシカとの遭遇状況の予測と最も遭遇しやすい条件の特定を行った。説明変数として3種類の要因(時間、天候、ルート)を選択した後、LightGBMモデルとOputunaによるパラメータチューニングを用いて頭数の予測を行なった。また、同モデルにより特徴量重要度を算出した。なお、本研究では説明変数の時間を「年・月・日」に細分化したモデルと、年月日を区別しない「時系列データ」として認識したモデルの2パターンで予測を行った。予測モデルの正答率はどちらの場合も約58%であった。どちらのパターンでも特徴量重要度は概ね「時間」「ルート」「天候」の順であった。また、時間とルートの特徴量重要度に大きな差はなかった。この結果より本研究では経験則に頼らず、膨大なデータから目撃される頭数に働きかける要因を特定することができた。ただし、複数の評価指標を俯瞰すると、このモデルの精度は高いとは言えず、過学習の兆候も見られる。今後は、(1)過学習の解消、(2)「積雪量」「餌の豊凶度合い」「気候帯」などの要因も含めて分析を行う、(3)芦生研究林以外で収集された情報を応用できるモデルを構築するなどの工夫により、シカの個体群動態の解明や予測精度の向上が期待される。