| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-012  (Poster presentation)

降水の変化傾向は温帯性蚊の個体群動態に影響を与えるか【A】
The effect of rainfall patterns on population dynamics of temperate mosquitoes【A】

*丸山みく, 遠藤大志, 太田俊二(早稲田大学)
*Miku MARUYAMA, Taishi ENDO, Shunji OHTA(WASEDA University)

地球温暖化の進行に伴って蚊媒介性感染症の広がりが変化する可能性がある。特に熱帯域ばかりでなく温帯域においても感染が新興、拡大する恐れがあり、温帯性蚊の個体群動態を将来予測することが求められる。一般に将来気候変化は気温上昇に着目されることが多いが、幼生段階の蚊が水環境で生息することを考慮すると降水パターン変化の影響は無視できない。

本研究では気候値から蚊の個体群動態を出力するモデルを用いて、降水パターンの変化が水生幼虫の個体群動態にどのような影響を与えるか、また将来気候下でそれがどのように変化するかをシミュレーションした。

水生個体が多く生息する夏において、降水量が増加する場合と、降水の継続日数が延長する場合を想定して感度実験を行なった。この結果、降水が強化されるシナリオほど蚊個体の減少が引き起こされており、この影響力は降水量の増加よりも降水期間の延長においてより大きいことが示された。

個体群動態の将来予測のために、RCP2.6とRCP8.5シナリオを想定したGCMの将来予測気候値を用いた。これらの値は、観測値よりも偏りの小さい降水が多頻度で発生しており、バイアス補正をすると、極端な降水が稀に発生するようになった。このことを反映して補正前のGCMデータを使うと、個体数が少なく、終息時期が早く見積もられることがわかった。また、バイアス補正後のデータで個体群動態の将来予測値を求めたところ、いずれのシナリオでも個体数は減少し、RCP2.6よりもRCP8.5の方が減少率は大きくなった。

幼生蚊が生息する水環境には降水をはじめとするさまざまな気象要素が関わっており、それらが蚊の個体群動態に影響を及ぼすことを前提としたうえ、降水発生日数や極端降水の増減などの今後の降水パターンの傾向をどのように想定するかが個体群予測に重要であることが本研究から示唆された。


日本生態学会