| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-014  (Poster presentation)

河川利用はスズキに高成長をもたらすか?耳石解析に基づく回遊履歴・成長履歴の推定【A】
Does river use bring high growth to Japanese sea bass? : migration and growth histories based on otolith analyses【A】

*高井万葉(東京大学), 黒木真理(東京大学), 白井厚太朗(東京大学), 眞名野将大(水産研究・教育機構), 冨樫博幸(水産研究・教育機構), 櫻井慎大(水産研究・教育機構), 児嶋大地(京都大学), 村上弘章(東北大学), 久米学(京都大学), 市川光太郎(京都大学), 三田村啓理(京都大学), 山下洋(京都大学)
*Kazuha TAKAI(Tokyo Univ.), Mari KUROKI(Tokyo Univ.), Kotaro SHIRAI(Tokyo Univ.), Shota MANANO(FRA), Hiroyuki TOGASHI(FRA), Shinta SAKURAI(FRA), Daichi KOJIMA(Kyoto Univ.), Hiroaki MURAKAMI(Tohoku Univ.), Manabu KUME(Kyoto Univ.), Kotaro ICHIKAWA(Kyoto Univ.), Hiromichi MITAMURA(Kyoto Univ.), Yoh YAMASHITA(Kyoto Univ.)

 スズキLateolabrax japonicusは海洋沖合で産卵・孵化する海産魚であるが、個体群の一部は河川の汽水域・淡水域に侵入して成育する。海洋に生息する魚類が河川に遡上する際には、淡水の環境に適応するコストや河川増水による死亡リスクが増加することが考えられるが、このようなコストやリスクを補償する直接的なベネフィットは不明である。本研究ではスズキの河川利用のベネフィットを明らかにするため、河川における豊富な餌資源の恩恵を受けて高い成長率が得られるという仮説について検証した。
 2018年7月から2022年7月に、宮城県(仙台湾・北上川)、京都府(丹後海・由良川)、大分県(大野川・大分川)において、河川では釣獲、海洋では漁獲(定置網・底曳網)によって計156個体のスズキを採集した。魚類頭部にある耳石に微量に蓄積されるSrの濃度(Sr/Ca比)を分析し、個体ごとに海洋と河川間の移動履歴を推定した。また、耳石の年輪構造から過去の成長量の履歴を調べた。個体の若齢時の成長量に影響を及ぼした要素を線形混合モデル(LMM)により解析したところ、海洋生息期に比べて河川生息期に高成長であることがわかった。また、その傾向は大分県、京都府、宮城県の順に顕著で、低緯度ほど河川において高成長であることが示された。これは、低緯度ほど海洋より河川の生産性が高いという生産性仮説を支持する結果であった。そのため、河川侵入個体は、河川の豊富な生産性に起因する餌資源を享受し、若齢時に高い成長率を得ているものと推察された。本研究により、スズキの河川利用のベネフィットとして高成長がもたらされることが明らかとなり、河川における高成長の要因のひとつが豊富な餌資源である可能性が示唆されたことから、海洋と河川の両環境を柔軟に利用する生活史がスズキ資源の安定を維持しているものと考えられた。


日本生態学会