| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-017 (Poster presentation)
繁殖期に縄張り内で明瞭な囀りを行う鳥類では、縄張りを数える(テリトリーマッピング)ことで個体数を調査できるが、多くの時間を要するため、広範囲の調査には適していない。一方、ルートセンサスは広範囲をカバーできるが、見落としが含まれるため絶対数を調べることはできない。そこで、我々は、テリトリーマッピングとルートセンサスを比較し、ルートセンサス1回当たりの縄張り発見率を求め、さらに環境の空間異質性と発見縄張り数を対応させることで、広域の総個体数推定と個体数の空間分布を推定した。
伊豆諸島新島において、メジロとホオジロを対象に1990年代に採取したデータをもとに、全島の総個体数推定を試みた。まず、テリトリーマッピングのデータをもとに、各縄張りの発見の有無をベルヌーイ試行として、ルートセンサスにおける縄張り発見率を求めた(モデル①)。次に、200mメッシュに区切り、全島ルートセンサスの発見個体数を目的変数、植生を説明変数、発見率をオフセット項とするGLMMを構築した(モデル②)。さらに、推定された植生と発見個体数の関係を、全島のメッシュに外挿し、各メッシュの縄張り数、及びその合計である総個体数を求めた(モデル③)。全てのモデルは、階層ベイズモデルとしてすべてのパラメータを同時に推定し、個体数は縄張り1つに雌雄1ペアがいると仮定して2倍し求めた。
推定の結果、メジロは4725羽、ホオジロは2718羽生息すると推定された。また、メジロでは森林率、ホオジロでは開放地率が縄張り数に対して正に寄与することが示され、メジロは本土と異なり市街地では少ないと推定されたのに対し、ホオジロは本土同様に開放地で多いと推定された。本手法は、対象種の生態や観察状況によりモデルを改変することができ、小労力で個体数と空間分布を得られるため、基礎研究から希少種の保全まで幅広い分野で有用となる可能性がある。