| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-020 (Poster presentation)
生息域内に存在する素材を用いて巣などの構築物を作る行動は,鳥類や昆虫など多くの動物種において認められる.動物の構築物は,植物片や生物遺骸などで装飾される場合もある.構築物とその装飾には,物理的な保護,捕食回避,採餌効率の向上といった機能があり,これらの形状には生息地の環境により集団間変異が生じる事例が知られている.しかし,同一集団内における構築物と装飾の形状変異や,形状変異と生息環境の関係についての知見は乏しい.
河川に生息する水生昆虫のキタガミトビケラは,幼虫期に筒状の巣(筒巣)を構築し,筒巣から伸びた紐状の支持柄を石礫に固着させ,水中に筒巣を漂わせて流下有機物を摂食する.本種の主な食物は流下昆虫であり,高質な流下物を確実に捕獲するための適応は重要である.本種には筒巣を細かい植物片により装飾する集団や個体が存在し,装飾量には集団間や集団内で変異が認められる.装飾の機能は未解明であるが,装飾により筒巣近辺の水流を改変し,高質な流下物の捕獲効率を向上させている可能性がある.これが正しければ,生息環境の水理条件に応じて有利な筒巣や装飾の形質は変化すると考えられ,筒巣形状や装飾量は個体の生息場の水理環境と対応した変異を示すと予測される.本研究は,幅広い微生息環境に高密度で生息するキタガミトビケラ集団において,筒巣や装飾の形状の集団内変異と,個体の生息環境と形状変異との対応関係を明らかにすることを目的とする.
筒巣の装飾量には,体サイズに比して4~5倍の集団内変異が認められた. 体サイズの影響を除去した場合,生息場の流速が低い個体ほど装飾量は多く,長い植物片を筒巣の広範囲に付着させていた.支持柄サイズやその他の筒巣形状に,生息場の流速との関係は認められなかった.本種個体は,食物の供給が少ない緩流域に生息する場合,装飾量を増やすことで流下物の捕獲効率を向上させている可能性がある.