| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-022  (Poster presentation)

渡り中継地干潟におけるシギ・チドリ群集と無脊椎動物群集の被食–捕食ネットワーク【A】【B】
The prey-predetor network between the migratory shorebirds and invertebrate community in a stopover mudflat【A】【B】

*田谷昌仁(東北大学, 鳥類標識協会), 細谷淳(鳥類標識協会), 竹田山原楽(東北大学, 鳥類標識協会), 香川理(筑波大学), 千葉聡(東北大学)
*Masanori TATANI(Tohoku University, Japan Bird Banding Association), Jun HOSOYA(Japan Bird Banding Association), Yawara TAKEDA(Tohoku University, Japan Bird Banding Association), Osamu KAGAWA(University of Tsukuba), Satoshi CHIBA(Tohoku University)

なぜ多種の生物が同じ場所に共存できるのか?という問いは、ニッチ理論に基づいて古くから研究されてきた。餌ニッチが分離することは、多種共存を可能にする機構の一つだが、その要因は生物によって様々だと考えられる。
鳥類の中でもシギ・チドリ類は、湿地をはじめとした平面的な環境で多種からなる群れを形成する。さらに嘴形態が多様なため、餌に対する嘴形態の特殊化による餌ニッチの分離や多種共存の研究の題材としてしばしば扱われてきた。しかし、シギ・チドリ類の60%の種が毎年長距離を渡り、年間を通じて生息地を大きく変えるにも関わらず、シギ・チドリ類の餌ニッチ分離の研究は越冬地に偏っており、渡り途中の中継地での研究が不足していた。中継地での適切な栄養補給は、渡りの成否や繁殖地への到達の種内競争といった個体の適応度に直結するため、中継地にけるシギ・チドリ類の多種共存も、餌ニッチの分離によって実現されているという仮説を立てた。
この仮説を検証するため、私たちはシギ・チドリ類の中継地である宮城県鳥の海において、以下の野外調査と食性分析を行った。2019年から2022年にかけて、シギ・チドリ類が滞在する春と秋それぞれ3年間にわたって鳥を捕獲し、フンを採取してDNAメタバーコーディングにより詳細な食性解析を行なった。鳥の海のシギ・チドリ類は環形動物、軟体動物、節足動物といった幅広い分類群の無脊椎動物を食べていたが、その餌群集組成は種によって有意に異なっており、種間で利用する餌ニッチが分離していた。しかし、この傾向は秋にはみられた一方で春にはみられず、春と秋でシギ・チドリ類群集と無脊椎動物群集のネットワークが異なっていることが示唆された。シギ・チドリ類の多種共存の機構には、従来推測されていた嘴形態の特殊化だけでなく、餌群集の変動による効果もあるかもしれない。


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