| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-025 (Poster presentation)
種間関係は、食物網における複雑なエネルギー動態を介して、群集構造を決定しうる重要な駆動要因である。大型哺乳類による捕食を通じた他種へのトップダウン効果はよく知られるが、高栄養で限られた餌資源である動物死体を奪い合うスカベンジャー(死肉食動物)ギルドにおいては、その関係性はあまり知られていない。日本の温帯森林生態系におけるニホンジカ死体をめぐっては、2種の大型スカベンジャー(ツキノワグマ[以下、クマ]およびイノシシ)が存在するが、これら大型スカベンジャーが他種の死肉獲得に及ぼす影響も不明である。一方で、雑食性を有するスカベンジャー各種の死肉獲得には、種間関係だけでなく、季節による潜在的な死体利用の変化も影響を与える可能性がある。
本研究では、大型スカベンジャーと季節(夏および秋)がスカベンジャー各種(クマ、イノシシ、タヌキ、テン)の死肉獲得に与える影響を明らかにすることを目的とした。センサーカメラを用いて、森林内に設置したニホンジカ死体の消失過程を観察し、スカベンジャー各種の訪問回数(/1死体)と採食時間(/1訪問)に各変数が与える影響を検証した。その結果、クマとイノシシは互いの死肉獲得を抑制することで競争関係にあることが明らかになった。また、大型スカベンジャーは中型スカベンジャーの死肉獲得に対して、抑制効果と促進効果の両方をもたらしていることも明らかになった。この結果は、大型スカベンジャーは中型スカベンジャーに恐怖の景観を与える一方で、死体の厚い皮を開くことで死肉へのアクセスを容易にしていることを示唆する。さらに、大型スカベンジャーのシカ死体への訪問確率は季節と強く関連しており、トップダウン効果の強さは季節によって変化する可能性も示唆された。このような各種の死肉獲得に対する大型スカベンジャーと季節の効果は、複雑な種間関係の形成を通じて食物網の維持に寄与している可能性がある。