| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-027  (Poster presentation)

ニホンアマガエル幼生におけるヤゴの捕食リスクに応じた尾の体色の多型【A】【B】
Tail fin coloration polymorphism of Dryophytes japonicus tadpoles depending on predation risks of dragonfly nymphs【A】【B】

*笠谷幹朗, 竹内寛彦(日本大学)
*Mikio KASATANI, Hirohiko TAKEUCHI(Nihon Univ.)

 捕食者に対する誘導防御として、カエル幼生は生存率の上昇のために体の形状や生活史、活動量など様々な形質を変化させる。特に、アマガエル属Dryophytesの幼生はヤゴのいる環境で育つと尾の体色が変化する。尾は黄色やオレンジ、赤の有彩色になり、縁に黒斑をもつようになるが、この体色は目立つことでヤゴの攻撃を生命維持に重要な体部から尾にそらす機能をもつとされている。この体色の色相や模様に多型が知られているが、その適応的意義はわかっていない。
 私たちは、5つの野外の池からニホンアマガエル幼生とその捕食者となるヤゴを採集し、幼生の尾の体色とヤゴの種類や数の関係を調べた。ヤゴがいる池では有彩色の尾を持つ幼生が多く確認され、その割合は池にいるヤゴの個体数と強く関連していた。池からは登攀型のクロスジギンヤンマ、匍匐型のショウジョウトンボ、埋没型のシオカラトンボが採集された。これらの生活スタイルの異なるヤゴ3種類の割合は池間で異なっていた。特にサイズの大きく活動的な捕食者であるクロスジギンヤンマのヤゴがいる池では、幼生の尾は全体に有彩色をもち、黄色みと赤みが強い傾向にあった。一方で、低層を好む他のヤゴ2種が多い池では、尾全体に有彩色をもつ個体の他に、尾の下部のみに有彩色をもつ個体が確認され、黄色みが強い傾向にあった。それらの結果から、ニホンアマガエル幼生の尾の体色の多型は、池にいるヤゴの種類や数といった捕食リスクの種類・大きさに影響を受けていると考えられた。さらに、赤みが強い幼生が多く確認された池では、相対的な最大尾高と尾の赤みの強さは、負の相関関係にあった。尾高の増大もヤゴに対する誘導防御として知られている。この結果から、赤みが強いほどヤゴの攻撃を尾にそらすことが効率的である、あるいは、幼生は捕食リスクに応じて異なる防御応答を使い分けると考えられる。本野外調査により示唆された事柄は、実験的に検証する必要がある。


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