| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-029 (Poster presentation)
マダニ媒介性感染症の生態系内での動態を理解するためには, ベクターであるマダニの群集動態や, マダニと野生動物との相互作用を解明する必要がある. これまで環境中のマダニ量に影響する環境要因などが研究されているが, 野生動物種へのマダニ寄生数がどのような要因に規定されているかは未だ明らかでない. 野生動物種に寄生するマダニ群集動態を理解することは, 野生動物種へのマダニ寄生リスクだけでなく, マダニ媒介性微生物への感染可能性の評価につながる. そこで本研究では, 「どのような個体が, どのような環境で, どのようなマダニ種に寄生されやすいのか?」を解明するため, アライグマに付着したマダニ数に影響する要因を解析した. 外来種のアライグマは, 様々な環境を利用するため感染症の運搬能力が在来哺乳類より高いことが示唆されており, 感染症伝播に果たす役割を優先的に解明する必要がある.
2022年5〜11月に北海道で捕獲されたアライグマ138個体から7種(ヤマトマダニ, タヌキマダニ, シュルツェマダニ, パブロフスキーマダニ, オオトゲチマダニ, キチマダニ, ヤマトチマダニ) のマダニを採取した. サンプル数が十分得られた種について, 寄生個体数を応答変数とした一般化線形混合モデルを構築した. 季節の指標とするため, フラッギング法により環境中のマダニ量を定量した. また, アライグマから個体要因, 捕獲地点から気候指数などの環境要因を得た. 景観要因は捕獲地点から一定間隔のバッファーを発生させて各々算出した. 各バッファーサイズで赤池情報量基準(AIC)によるモデル選択を行い, 各バッファーサイズのベストモデルのAICを比較することで最適バッファーサイズを決定した. 結果として, 森林面積率は全マダニ種に正の影響が, 捕獲前の降水量はタヌキマダニ以外の種に負の影響があるなど, アライグマへの寄生数はマダニ種ごとに異なる要因に影響を受けることが明らかになった.