| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-030 (Poster presentation)
群集の食物連鎖長を決定する要因は,各種個体群の動態が出生率と死亡率により左右され,移出入率の効果はほぼ無視できる湖沼,島嶼,河川リーチといった閉鎖系や比較的大きな空間スケールの系において検討されてきた。これらの系の多くでは,生態系サイズや生産性が食物連鎖長の決定要因として重要であることが示されているが,資源や個体の移出入が各種個体群の動態を大きく左右する小さな開放系においても,それがあてはまるか否かは未解明である。
森林渓流では,渓畔植生由来のリターは河床の局所に集中して堆積し,同一河川リーチ内に様々なサイズ(0.01~10数m2)のリターパッチが形成される。リターパッチには,基礎資源としてリターが豊富に存在し,底生動物を構成種とする局所的な群集が成立している。その一方で,リターは栄養的には低質であるとともに,河川底生動物は移動性が高い。演者らは,リターパッチ群集の構成種は,パッチ外の石礫表面で生産される付着藻類に対する依存性が高いことを明らかにしている。付着藻類はリターに比べて栄養的に高質であり,高次捕食者を支える要因として付着藻類に由来する系外資源の流入は無視できない。本研究では,リターパッチ群集の食物連鎖長の決定要因として,パッチサイズとともに,系外資源流入による生産性の効果を異なる渓流や季節において検討した。
食物連鎖長に対するパッチサイズの正の効果は,堆積リターの大半を葉が占める春から初夏に認められた。ただし,枝や微粒有機物からなるパッチが多い渓流や季節ではその効果は弱まった。系外資源流入による生産性の正の効果は,藻類生産に対する光制限が強いと推測される渓流でのみ示唆された。本研究の結果は,小さな開放系においても食物連鎖長の決定要因として生態系サイズと生産性は重要であること,ただしそれらの効果の重要性は,基礎資源の量や質によって時空間的に変動することを示唆するものである。