| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-037 (Poster presentation)
チョウ類は生態系の文化的サービスを担う昆虫であり、緑地の減少が進む都市域では環境教育の素材として注目される.特に,チョウ類の発生消長や環境選好性については古くから経験的,定性的な研究が多くなされているが,客観的・定量的に解析することでチョウ類の特性を理解するとともに,多種多様なチョウ類が発生しやすい環境を評価することも可能となる.本研究では玉川学園キャンパスを一つの例とし,都市域に残された里山におけるチョウ類の発生消長と環境選好性を定量的に示すとともに,チョウ類が発生しやすい環境について議論した.
調査地は東京都町田市に位置し暖温帯に属する.発生消長の評価のためにルートセンサス調査を2021年5月~2022年12月にかけて1週間毎に行い,目撃したチョウの種と位置情報(GPS座標)を気象環境(気温,風速,日射量,降水量,気圧)とともに記録した.また,環境選好性の評価のために地理情報システム(QGIS)を用いて観察されたチョウのGPS座標を中心とした周囲の土地被覆比(森林:草原:人工物)を算出した.
その結果,チョウは3月上旬から12月中旬まで目撃され,全期間を通して5科44種3376個体が目撃された.種毎には,明瞭にある1つまたは2つの季節に目撃個体数が多くなる種,目撃個体数が多いまたは少ない状態で通年目撃され続ける種などに分類された.これらの目撃個体数の増減に対して気温は強い正の影響をまた降水量は負の影響を与えていた.一方,これらのチョウは森林または草原で目撃されやすい種,人工物の近くでも目撃される種,林縁で目撃されやすい種に分類でき,これらの分類にはチョウの食餌・蜜源植物の分布やチョウの飛翔能力などが影響を与えていると考えられた.これらの結果から里山でチョウが目撃されやすい環境は人工物の少ない林縁環境であることが示され,このような環境の維持が文化的サービスの享受に重要であることが示唆された.