| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-038 (Poster presentation)
ノウサギ属は代表的な被食者であり、生態系の重要な役割を担っている。ノウサギ属の生息地利用には、餌と隠蔽物といった資源や、捕食者の存在が影響を与えると考えられるが、資源が制約される多雪環境における生息地利用については十分に明らかでない。本研究では、多雪環境におけるニホンノウサギは活動時には捕食者回避よりも採餌を重視した生息地選択を、非活動時には捕食者を回避した生息地選択を示すという仮説を検証することで、彼らの時空間的な生息地利用を明らかにした。
調査は山形県鶴岡市で行った。活動時の生息地利用を調べるために2021年と2022年の積雪期にカメラトラップを設置した。これにより、ノウサギと捕食者のキツネとテンの活動時刻と撮影頻度データを入手した。また、環境要因として各サイトにおける開空度と傾斜角を調べた。活動時の空間利用はノウサギの撮影頻度を環境要因と捕食者の撮影頻度で説明する一般化線形混合モデルによって、時間利用はノウサギと捕食者の日周活動の重複をカーネル密度推定によって調べた。非活動時の休息場利用を調べるために、2022年の積雪期に足跡追跡調査を行い、休息場ならびに対照地点の環境要因(水平開放度と傾斜角、樹冠の状態)と足跡の軌跡のデータを取得した。休息場と対照地点の水平開放度と傾斜角をスティール検定で、軌跡と休息場の樹冠の開閉を二項検定で比較した。
解析の結果、活動時のノウサギは、テンの撮影が多く、開空度が高く、傾斜が緩い環境を多く利用した。また、ノウサギの日周活動はテンおよびキツネとは分割していなかった。一方、休息場は水平開放度が低く、樹冠が閉鎖した環境に形成されていた。以上から、本研究の仮説は支持された。多雪環境においてノウサギは、活動時には捕食者に対して時空間的に分割せず採餌を重視した環境を選択する一方で、非活動時には捕食者を警戒して休息場を選択することを示した。