| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-040 (Poster presentation)
種数-面積関係(SAR)は,経験的に冪関数S=cAz(A:生息地面積,S:生息種数)で表される。SARの形状を予測する理論モデル研究は多いが,個別のSARについてz値を説明することはパラメータ推定の点から一般に困難である。森林渓流の河床には渓畔から流入した落葉枝リターが堆積し,リターパッチと呼ばれる生息地が形成される。リターパッチの面積は数100cm2から10数m2であり,SAR形成に関わるパラメータの評価は比較的容易である。山本ら(70回大会)は,リターパッチの底生動物群集における正のSARを示し,その形成機構として大面積パッチにおける生息個体数の多さ(random placement仮説)と,パッチ内の生息環境の高い不均質性(habitat diversity仮説)を示唆しているが,その評価は定性的なものにとどまっている。本研究は,リターパッチの底生動物群集について,野外調査により各種のパッチ内の空間利用パターンを明らかにした上で,各種のハビタットニッチと平均生息密度に基づく数理モデルを構築し,山本らの調査地におけるSARの形状を予測することを目的とする。
リターパッチ内のハビタットニッチ軸として水平,垂直位置を想定し,周縁部,内側表層,内側深部における底生動物各種の生息密度を比較した結果,多くの種で3区の間で差が認められた。各種について,3区の相対密度がパッチ内のハビタットニッチを反映するものと仮定し,様々な面積のパッチにおける生息可能域量をモデリングした。次いで,調査地のリターパッチにおける平均生息密度の既往データと,個体のランダム分布の仮定から,各パッチにおける各種の出現確率を求めた。このモデルから得られたz値(0.130)は,山本らの調査地におけるz値(0.127)と極めて近いものであった。したがって,底生動物群集におけるSARの形状の定量的側面は,各種の生息地内空間利用パターンと生息地面積に応じた個体数の増加により正確に予測されたといえる。