| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-047 (Poster presentation)
不動行動は,被食者が捕食者に攻撃された後に,独特な姿勢で一定時間硬直する行動である.この行動は,岩礁潮間帯に生息するイソヘラムシでも観察される.本種は,人為的刺激 (棒で数回つつく) を与えると,えびぞり姿勢を示し,数分間不動状態となる.ヘラムシ類は主に魚類や甲殻類に捕食されることが報告されており,本種の不動行動はこれら捕食者に対する行動防御であると予想される.本研究では,不動行動の捕食回避機能と,捕食様式の異なる捕食者に対する反応の違いを検証した.
不動行動の捕食回避機能を検証するために,イソヘラムシを淡水に1時間漬けた淡水処理群と事前処理を行わない対照群を設定した.淡水処理を行った個体は浸透圧ストレスにより動かなくなっており,攻撃されても不動行動を示さない.一方,対照群は攻撃されるまでは動くが,攻撃された際に不動行動を示す.本種と同所的に観察されるハゼ科魚類を捕食者とした捕食実験を行い,最初に攻撃されるまでの時間と被食率を淡水処理群と対照群で比較した.その結果,ハゼから最初に攻撃されるまでの時間は,対照群の方が淡水処理群よりも有意に早かったが,対照群の被食率は淡水処理群よりも有意に低かった.次に,捕食様式の異なる捕食者に対する反応の違いを検証するために,イソヘラムシと本採集地における捕食者候補である魚類3種 (丸のみ型捕食者),甲殻類1種 (非丸のみ型捕食者) を用いた実験を実施した.その結果,イソへラムシは魚類捕食者にのみ不動行動を示し,甲殻類捕食者に対しては体を激しくくねらせて捕食者から逃れる逃避行動を示した.
以上の結果から,イソヘラムシでは捕食様式の異なる捕食者それぞれに対する特異的な防御形質が進化していることが示唆される.