| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-048 (Poster presentation)
動物は一生の間に、複数の資源から1つを選択するという意思決定を繰り返している。特に高密度で生息する動物では、この意思決定は同種他個体が近くにいる状況でも行われると考えられ、他個体が資源選択に影響を与えていることは多くの動物で報告されている。しかし、こうした研究は、資源選択のプロセス(どのように選ぶか)と結果(どれを選んだか)のどちらかにしか注目してこなかった。また、動物が資源を選択するときには、意思決定の速さと選択の正確さにトレードオフ(speed-accuracy trade-off)があると考えられる。このような速さと正確さのトレードオフは様々な動物・場面で想定されている。本研究では、資源選択のプロセスが速さを、結果が正確さを反映すると想定して、ホンヤドカリの貝殻選択における同種他個体の影響を検証した。
北海道函館湾で採集したホンヤドカリを用いて、1個体で貝殻選択をするコントロール群と2個体で貝殻選択をする実験群を設定し、行動を比較した。意思決定の速さの指標として最初の引っ越しまでの時間(秒)を、選択の正確さの指標として2回目の引っ越しで元の貝殻に戻ったか否かを記録した。その結果、コントロール群と実験群で速さ、正確さともに有意差はなかった。しかし、本研究では、貝殻が周囲に豊富に存在するときでさえ、ヤドカリは他個体に干渉し、場合によっては1つの貝殻をめぐって闘争することを発見した(貝殻の調査の中断、貝殻の横取り等)。そこで、実験群を干渉あり群と干渉なし群に分け、3群で再解析したところ、干渉あり群が他群よりも引っ越しまでに時間がかかっていた。干渉行動の発見により、本種にとって貝殻選択中の他個体は競争相手であると同時に、良い貝殻を獲得するための社会情報の発信源であることが示唆される。
発表では、他の測定項目の結果も示しながら、同種他個体が資源選択の速さと正確さに与える影響について議論する。