| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-050 (Poster presentation)
【背景・目的】発表者らは、捕食魚であるドンコに捕獲されたニホンウナギ稚魚のうち、約半数がその鰓孔を通って脱出できることを明らかにした [Hasegawa et al., 2022]。脱出は全て尾部方向からであった。しかし脱出行動に関する基本的な情報は明らかになったものの、本種が捕食魚の体内で、どのような運動および経路で脱出するかは未解明である。そこで本研究では、X線映像撮影装置を用いて、捕食魚の体内における本種の脱出行動の詳細を明らかにすることを目的として実験を行った。
【材料・方法】捕食魚体内でのウナギの行動を明瞭に観察するため、本種の尾部および腹腔内に造影剤(バリウム)を注入した。注入後は、2日間隔離して回復させた。その後、捕食者であるドンコを収容した水槽内に本種を1尾投入し、ドンコが本種を捕獲した後、水槽ごとX線装置内に移動し、上方から撮影した。
【結果・考察】32個体のウナギ稚魚において、捕獲後の捕食者体内での行動をX線撮影することに成功した。観察した全ての個体において、少なくとも身体の一部がドンコの胃付近まで吸い込まれた。その後、脱出可能な経路を探るように胃内で円を描き回転する行動や、食道方向へ尾部を差し込む行動がみられた。 9 個体が、食道を経由して鰓孔からの脱出に成功した。脱出に失敗したウナギは、捕食者の消化管内で徐々に行動が鈍くなり、198.9 ± 91.3秒で完全に動きが見られなくなった。以上より、本種稚魚は捕食魚に飲み込まれた後、その胃から食道を通り、鰓孔方向に脱出を試みることが分かった。さらに脱出には、捕食者の消化管内という嫌気的で強酸性な環境への耐性や、そこから短い時間で抜け出すための筋力や遊泳力が必要であることが示唆された。