| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-057 (Poster presentation)
ベイツ型擬態あるいは保護擬態は様々な動物群から報告されている。サンゴ礁に生息するホンソメワケベラ(ベラ科)は、寄生虫を取り除く掃除行動によって多くの魚と掃除共生の関係を構築するため、魚食性魚類に食べられにくいと考えられている。ホンソメワケベラは黒色の縦縞模様と青い体色を組み合わせた掃除魚体色により海中でよく目立ち、この体色が掃除サービスを宣伝するシグナルとして機能する。ニセクロスジギンポ(イソギンポ科)は同様の体色パターンを持っており、ホンソメワケベラへの擬態によって他の魚を騙して鰭をかじる攻撃擬態だけでなく、捕食圧を低減させるベイツ型擬態の効果を得ると考えられてきた。ところが、ホンソメワケベラは毒を持たないため、食べられにくいという証拠は限られている。それどころか、野外と水槽の両方で捕食された事例が報告されており、掃除魚体色が捕食率を低下させる効果を持つかどうかは十分に検証されたとは言えない。そこで、本研究では(1)沖縄県瀬底島・崎本部・宮古島のサンゴ礁における460時間の潜水行動観察からニセクロスジギンポの潜在的な捕食者を特定し、(2)ホンソメワケベラと捕食者との水槽同居実験、及び(3)ホンソメワケベラ、ニセクロスジギンポ、クロスジギンポ(非擬態種)の3種を透明仕切り越しに捕食者に提示する水槽実験を実施した。その結果、ニセクロスジギンポは野外において時々エソ科魚類から捕食攻撃を受けることを確認した。一方、瀬底島で最も普通に見られる魚食性魚類のハタ科カンモンハタを用いて実施した水槽同居実験ではホンソメワケベラに対して捕食行動を示し、提示実験でもニセクロスジギンポを含む3種全てに対して捕食行動を示した。以上の結果より、掃除魚体色には捕食を抑制する効果がないため、ニセクロスジギンポの掃除魚擬態には保護擬態の効果はないことが明らかになった。