| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-061  (Poster presentation)

カニ類における進行方向と形態の関係性の解明【A】
Relationship between movement direction and morphology of Brachyuran crabs【A】

*井上翼(長崎大学・院・水環), 谷口隼也(長崎大学・院・水環), Jung-Fu HUNG(NKUST), 水元惟暁(OIST), 平井厚志(エビとカニの水族館), 竹下文雄(いのちのたび博物館), 佐藤武宏(生命の星・地球博物館), 河端雄毅(長崎大学・院・水環)
*Tsubasa INOUE(Glad. Sch., Nagasaki Univ.), Junya TANIGUCHI(Glad. Sch., Nagasaki Univ.), Jung-Fu HUNG(NKUST), Nobuaki MIZUMOTO(OIST), Atsushi HIRAI(Susami Crustacean Aquarium), Fumio TAKESHITA(Kitakyusyu Mus. of NH and HH), Takehiro SATO(Kanagawa Pref. Mus. of NH), Yuuki KAWABATA(Glad. Sch., Nagasaki Univ.)

カニ(Brachyura)は一般的に横歩きをする動物として広く知られているが、そのようなカニの中にも、多くの動物と同じように前方向に移動する種も存在する。このような進行方向の違いは、体形や歩脚などの形態と関係すると考えられるが、横歩きのカニと前歩きのカニの形態を定量的に比較した研究は、横歩きと前歩きのカニ1種ずつを用いて行った1例(Vidal-Gadeaら, 2008)しか存在しない。そこで本研究では、複数の種を用いて定量的に比較することで、前歩き、横歩きそれぞれの形態的特徴を明らかにすることを目的とした。
 まず、各種カニの進行方向を類別するために、カニの生体を用いて行動観察実験を行った。円形プール(以下水槽)に実験個体となるカニ1個体を収容し、10分間自由に移動させ、その様子をビデオカメラで水槽の真上から撮影した。この映像を基に各種の進行方向を類別した。続いて、博物館に収蔵されている液浸標本から頭胸部(甲殻)と脚部の計27項目の形態形質を測定した。進行方向と形態形質のデータが得られた74種を含んだ系統樹を遺伝子情報および文献から作成し、進行方向と形態形質の関係性を系統一般化最小二乗法(PGLS)により評価した。
 その結果、前歩きを行う種は横歩きの種に比べ、甲幅に対する甲⻑の⽐率と甲サイズに対する体⾼の⽐率が高いことが分かった。これは、前歩きの種が横歩きの種に比べて頭胸部が縦長で、分厚いことを意味する。さらに、前歩きを行う種は横歩きの種に比べ第1歩脚から第3歩脚の底節・腕節が長く、第1歩脚については長節・指節も長かった。これらの結果は、前歩き種の歩脚の位置関係や、前歩き種の運動特性(Vidal-Gadeaら, 2008)と関係していると考えられる。以上から、カニは系統的位置に関わらず、進行方向に応じた特徴的な形態を有していることが示唆された。


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