| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-065 (Poster presentation)
ヘビ類は様々な環境に適応しており、樹上性種も多い。手足のないヘビがどのように樹上適応しているのかは長年生態学や形態学分野で興味を持たれてきた。これまでの研究によって、樹上性ヘビ類はいくつかの特殊化形質を獲得し、高い登はん能力を持つことが知られている。日本本土にはアオダイショウとシマヘビの2種のナメラ属(Elaphe)ヘビ類が生息している。アオダイショウは鳥やネズミを主食とする専食者であり、シマヘビはカエルを主食として様々な脊椎動物を食べる広食者である。捕食者は利用する餌種の採餌に適した形質を獲得することから、民家の軒下などで鳥を捕食するアオダイショウはシマヘビよりも優れた登はん能力を持つと予測した。そこで、これら2種の成体と幼体を用いて飼育下で垂直な壁を登らせ、登はん能力を比較した。一方、樹上性ヘビ類は樹皮などに体を引っ掛けやすいように腹板にキールを持ち、血液を頭部に送りやすいように体のより前方に心臓が位置することが知られている。これに基づき、アオダイショウはシマヘビよりも腹板のキールが発達し、心臓が前方に位置すると予測した。そこで、これら2種の成体を用いて腹板と心臓の位置の比較を行った。行動実験の結果、成体と幼体ともにアオダイショウはシマヘビよりも優れた登はん能力を持つことが分かった。腹板のキールはアオダイショウの方がシマヘビよりも発達していた。しかし、予測に反して心臓はシマヘビの方がアオダイショウよりも相対的に前方に位置していた。行動実験の結果は、アオダイショウの登はん能力は経験によって後天的に獲得されたものではない可能性を示す。アオダイショウの発達した腹板キールは、高い登はん能力の要因の一つであると考えられる。シマヘビの心臓がアオダイショウよりも前方に位置していた理由としては、血液循環以外の要因が影響しているためと推察され、今後の調査が必要である。