| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-066 (Poster presentation)
効率的な資源獲得や捕食回避のため、限られた空間に執着して生活する動物種は多い。しかし、生涯を通して同じ場所を利用しているとは限らない。過去には、これらの動物種においては、急激な温度変化や生息地の断片化のような非生物的な要因や、捕食者や競争者の侵入といった生物的な要因など予測不能な要因により生息場所を手放すことが報告されている。一方で、生活環の中に含まれるような予測可能な要因で生息場所を変更するのかは明らかにされていない。実験的には、他の空間を経験することで、生息場所変更が生じることが確かめられていることから、他の空間を経験し得るような行動を伴う予測可能なイベントが、生息場所変更の要因になることが予想される。
繁殖は、周期的に訪れる生活史イベントの1つであり、成熟個体が繁殖行動をとる際は、生息場所から一時的に離れる。そのため、繁殖行動時に他の場所を経験する可能性があり、生息場所を変更することが予想される。そこで本研究は、生息場所への執着が強いサクラマス残留型を対象とし、繁殖行動が要因となり、生息場所を変更しているか調べた。本研究では、PITタグによる個体識別を行い、幌内川の上流5kmの調査区間で、PITタグが挿入された個体の居場所調査と移動モニタリングを行った。
研究の結果、残留型は非繁殖期(11月から8月)には21%の個体しか生息場所を変えなかったが、繁殖期(9-10月)には41%が生息場所を変えた。未成熟個体の場合、繁殖期中に生息場所を変えたものは17%しかいなかった。さらに、残留型は上流に生息場所を変更していることもわかった。以上より、繁殖行動が生息場所変更の要因になっていることが明らかとなった。サクラマスは秋に繁殖することから、本種では毎年秋を境に個体の河川内分布が変化すると考えられる。