| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-070 (Poster presentation)
複数個体で育雛する鳥類では、他個体の行動に応答して自らの行動を調節する協調行動が見られる。餌資源の分布が変化しやすい海洋環境に生息する海鳥類では、一部の種で協調行動が報告されているものの、種によってどのような協調行動を示すかについて不明な点が多い。採餌トリップ(繁殖地と餌場への往復)の長さに幅があるミズナギドリ目では、雛の絶食期間が短くなるように (1) つがい相手と同時に帰巣する回数を減らすこと、(2) つがい相手と長時間の採餌トリップを重ねないこと、(3) 雛の体調に応じて採餌トリップ長を決定すること、(4) つがい相手と同時に帰巣した後にトリップ長を変化させることが数種で知られている。
本研究では、ミズナギドリ目の海鳥であり、1雛を巣穴で育てるオオミズナギドリ(Calonectris leucomelas)を対象とした。新潟県粟島で繁殖する本種は、トリップ長が1〜10日と幅広いこと、日本海と太平洋を餌場として利用することが知られている。2019年、2020年、2021年、2022年につがいにGPSロガーを装着して移動経路を記録し、巣内の雛の体重を計測して、(1)〜(4)を行っているか解析した。
その結果、(1)〜(3)は否定されたが、同日につがい相手も帰巣した際はその後のトリップ長を延ばしていた。つがいと同日に帰巣した場合、つがい相手が雛に給餌したことを雛の餌乞い強度から把握できるため、少なくとも片親がトリップ長を伸ばしたと考えられる。オオミズナギドリが(1)〜(3)のような協調行動をとらない理由として、本種の雛が長い期間をかけて脂肪を蓄積しながら成長すること、また、本種が長時間の採餌トリップにより太平洋で栄養価の高い餌を得ることが考えられる。このことから、海鳥の協調行動には、雛の成長特性や繁殖地周辺の餌環境が重要である可能性が示された。